北大における人件費削減報道を見て考えてみたこと。

はじめに申し上げておきますが、筆者は北大関係者ではありません。別に北大執行部の味方をするつもりもありませんが、執行部はこんな風に考えているのかなーというのを、Facebookはてブでバズっているのを眺めながら、いろいろと考えてみたところです。
ご関心のある向きもあるやも、と思って、メモ代わりに残しておきます。
なお、国立大学法人における人事制度や会計基準については少々の知見はあるものの、業務できちんと扱ったことは皆無なので、趣味で勉強した程度であることもあわせて開示しておきます*1
国立大学法人制度や国立大学法人会計基準についてはだいたい前提として書きますが、疑問点等ありましたらコメントいただければ(能力の限りで)お答えいたします。


北海道大学職員組合のブログによれば、執行部が教授相当で205人分の人件費削減を提案した、ということのようです。
北大で教授205名分の人件費削減を提案 - エルムの森だより
同ブログのリンク先にある執行部提案資料と思しき資料(http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kumiai/16/160906.pdf。以下「執行部資料」という。)によれば、収支均衡を図るためには平成29年度に▲9.9%(教授換算で143人分)、平成33年までの累積で▲14.4%(同205人分)の削減が必要との由。

全体の財政状況については、国立大学会計法会計基準が収支均衡になるよういろんな操作をしているせいで、財務諸表を概観する程度では素人にはよくわからないので、比較的直感的にわかりやすいであろう一般運営費交付金(最近は基幹運営費交付金って言うんですかね)*2と承継教職員*3の人件費との比較、という観点から考えてみたいと思います。
なお、前提として、承継教職員の人件費については安定的な財源から措置するのが望ましいため、これまでおそらくほとんどの国立大学で運営費交付金を財源としていたものと思われます(筆者としてはそういう認識ですが、人事制度ということもあり、なかなか明文化されたものは出てきません。名古屋大学における運営費交付金の使途に関する基準が一例と言えるでしょうか*4)。

財務諸表のデータを見てみると、平成16年時点で一般運営費交付金*5の額が385億円、承継教職員の人件費は313億円*6と、ここには72億円ほどのマージンがありました。一番のコアとなる人件費を全額運営費交付金で払っても、まだ72億円はフリーハンドで使えるお金があったわけです*7
これが、平成25年にはそれぞれ283億、271億、12億と、マージンが大幅に小さくなっています。この頃は震災の影響もあって給与削減が行われていたこともあり、幅が小さくなっていたという要因があるのでしょうが、平成27年には317億、297億、20億と若干回復しています。

ただ、(「年金一元化の影響」と表現するべきかはともかく)法定福利費平成30年までは上がり続けることが確定しているわけですし、運営費交付金は「機能強化促進係数」がある以上、少なくとも第3期中期目標期間中は減り続けることが見込まれます。それと今後の人件費見込みを照らし合わせたところ、人件費を執行部資料の通り削減しないと帳尻が合わない、ということになったのでしょう(なお、中期目標期間中の収支見込みについては中期計画の別紙に摩訶不思議な(苦笑)計算式とともに明記されています)。

執行部資料によれば、「平成29年度から外部資金財源でも本学教員と同程度の役割と責任を担うことができる教員雇用制度を創設する」と書いてあるので、北大においてもおそらく承継教職員人件費は運営費交付金でまかなうという前提があるように思われます*8。ただ、運営費交付金が減り続けている現状で、すでに運営費交付金の額が承継教職員人件費を下回っている大学もあるとも聞きますし、もう「安定財源でないといけない」なんて言っていられないように思います。

北大の規模であれば、ある程度安定的に間接経費が獲得できると見込まれるところ*9 *10、ここまでドラスティックに教員を減らすよりも、間接経費等からも承継教職員人件費を措置する、とせざるを得ないのではないかと思います(もっとも、そうしたところで一定のポスト削減は免れないのでしょうが)。東大なんかは平成18年以降、総人件費改革への対応と教員ポストの全額再配分ということで承継教員ポストの一定比率を削減してきたのですが*11、北大では人件費ポイント制を導入して部局ごとに柔軟に人件費管理ができるようにしたがために、これまで毎年の漸減ができなかった、という事情もあったのかもしれません(「北海道大学の概要」各年度版を見るに、平成16年と平成28年を比較すると61人(3%程度)の減となっていますので、そこそこ減っているようにも思われますが)。

教員を減らすというのはやっぱり最後の手段だと思うのですが、教員だけでは組織として存在できないわけですし、様々なトレードオフがある中で、大学をどう意義があるかたちで存続させていくのかということを、そろそろ本気で考えないといけないのだと思います(もう遅すぎるくらいの気もするけれど、考えないよりはいまからでもはじめた方がよほどマシでしょう)。
減らしたくないというのはわかりますし、生首があるのもわかるのですけど、だからって何もしなかったら借金が増えていくばかりの国鉄の二の舞にもなりかねないわけですし…(国鉄は1964年に初の赤字を計上して以来、分割民営化に至るまで実に20年以上連続して赤字計上を避けられませんでした)。

それにしても、承継人件費を基幹運営費交付金で措置できなくなった時点で、承継退職金を特別運営費交付金で措置するという現行スキームは、なんだか大変不思議なスキームになるような気もするので、交付国債でもなんでもいいから、潜在的な負債を各国立大学法人に移転してしまえばいいのでは、という気もいたします(参考:国立大学法人に年俸制は広く導入されるのか?(5): NUPSパンダのブログ)。
もちろん、運営費交付金のスキームとして必要経費−大学収入(授業料、診療収益、産学連携収入等)を措置するという考え方なのですから、必要な人件費の全額を直ちに運営費交付金で措置しないといけないわけではないのでしょうが…。。
退職手当と損益外減価償却累計額という「国の隠れ債務」は本当にどうにかしてほしいなあ&さっさとどうにかした方がいいんじゃないか、と思うところです…。。

*1:というわけで事実誤認等がありましたらコメント等でお知らせいただけましたら幸いです。特に予算実務はまったく知らないので…

*2:原則何にでも使ってかまわないお金

*3:おおむね、国立大学法人化以前から存在するポストに対応するポスト。もっとざっくり言えば原則的には任期のない正規教職員

*4:とくに附属病院で診療収益を財源として承継相当職員?を雇用している例も見られます

*5:ここでは期間進行基準で収益化した運営費交付金収益の額を一般運営費交付金の額としました

*6:退職手当は特別運営費交付金(費用進行基準)の対象なので除いています

*7:授業料とか病院の黒字(あれば)という要素もありますが、とりあえず措いておきます

*8:おそらく財源が違うと特任教員扱いになるのでしょう

*9:間接経費があるから使えるお金があるとも限りませんが。ともあれ、科研費の間接経費等はある程度安定財源とみてよいでしょう

*10:北大の財務諸表によれば、科研費等の間接経費の額はおおむね13億円程度を底として安定しています

*11:うち一部を総人件費改革への備えとして凍結し、残りを再配分に活用