バーニー・サンダース来たる(動画あり)


土曜だったか日曜だったか、Facebook民主党の大統領選挙予備選でヒラリー・クリントンをけっこうな勢いで追いかけているバーニー・サンダース上院議員がうちの大学に来るとかいうのを見かけて「え?」と思いつつもリンクをたどったら公式に本当に書いてあって、しかも火曜日のことだとか。
4時開場とのことで、それじゃ授業中だよなあ…と思いつつも、とりあえず登録だけはしてみたら、週明けに見つけた記事では6時半からpre-programが開始とのことで、これなら行ける!と俄然やる気になっておりました。
で、火曜日当日の記事によれば、会場のキャパは6500ほどで、アナウンスから数時間で相当数の登録があったとのこと。人口は4万人くらいだったと思うのですが(おそらく学生は含まれてない)、すごい動員であります。
あとは、スポーツが盛んということはあるにせよ、何千人も収容できるハコがキャンパスに複数あるというのもすごい話ですね。

で、2時過ぎに授業に向かうと、その時点ですでに相当長い列。学生新聞の記事によれば、朝8時から並んでいた人もいたのだとか*1

話の中身は覚えている限りではこんな感じでした。
マリファナ:Wall streetのバンカーたちが経営に失敗してもすぐ忘れ去られ、さらには給料が増えさえしているのに、マリファナ所持で捕まったら一生criminal recordがついて回る。マリファナを規制薬物にする必要はない。メンタルヘルスの問題だってそれで大部分解決するはず。
local policeが頑張っているのは知っているけど、demilitalizeすべき。自分たちのことは、その地域のダイバーシティが反映された警察が守るべき。*2
大学の授業料無料化:Wall streetのbailoutにはさんざんお金が投入されたんだから、大学の授業料無料化だってできるはず。刑務所やwar on drugにお金を使うのではなく、教育にお金を使うべき。
health care:オバマケアで状況は好転したが、まだ保険に入れていない人がいる。保険加入は基本的権利であり、国民皆保険を実現する。
気候変動は起きている*3。人間のせいで起きているのであり、ギリギリだけどいまならまだ間に合う。化石燃料じゃなくて再生可能エネルギーをもっと使うべきだ。

アメリカでは様々な改革が起きてきた。奴隷廃止、女性参政権、人種差別禁止、gay marriage。私たちは世の中を変えることができるんだ!

最新の調査によれば、投票率が高くなれば予備選に勝てる見込み。来週の予備選ではペンシルベニア史上最高の投票率にしよう!


あと、随所でマイノリティ(若年層、黒人、ラテン系、女性、ネイティブアメリカン)の声を聞いているんだ、という台詞を織り込んでいたのが興味深いところ。The campaign is hearing from ...とかって繰り返し言ってました。

事前の予想では授業料無料化に重点を置くんじゃ、と言われていましたが*4、必ずしもそんなことはなく、とはいえ若者向けの内容だったと思います(そもそもバーニーの主なターゲットは若者かもしれませんが)。
開始前になぜかウェーブが始まるなど、けっこうな勢いで盛り上がってるのを見て(まあ、私も一緒になって盛り上がってましたがw)、なかなかなお祭り騒ぎだなあ、と思いました。大統領制の効果はこうやって民主主義を下支えするところにもあるのかもしれません。

Campus policeに加え、シークレット・サービスはもとより、TSAまで来てた(私の通ったセキュリティでは見た覚えないですが、おそらく入場のセキュリティチェックを手伝っていたのでしょう)のにはびっくりしました。まだ大統領候補ではないし、シークレット・サービスだけでは手が回らないということなのでしょうかね。

*1:Students wait in line for Bernie Sanders' speech | State, National and International | collegian.psu.edu

*2:昨年夏にミズーリ州のFergusonで起こった白人警官による黒人少年の射殺事件が念頭にあるのかと

*3:これで歓声が起きるのがアメリカらしいというかなんというか

*4:前説?によれば会場校は全米で2番目にin-state tuitionの高い公立大学のようですし

Title IXと性的暴行被害と合衆国連邦政府の役割、翻ってアメリカの高等教育

Legal Issuesの授業に向けてTitle IXについて予習をしていたら、その最中にtimely warningsとしてsexual assault(性的暴行)が発生した、というメールが何通かやってきて、うーむ、と思っていたところです*1
つらつら書いていたらずいぶん長くなってしまいましたが、中身はタイトルの通り、そして結論はアメリカの強みは多様性にあり、ということです。


Title IXというのは、"Education Amendments of 1972"で制定された、連邦政府からの補助金を受けている教育機関において、性別による差別を禁止した連邦法です。

No person in the United States shall, on the basis of sex, be excluded from participation in, be denied the benefits of, or be subjected to discrimination under any education program or activity receiving Federal financial assistance.*2
(へたっぴな仮訳)合衆国内における何人も、連邦政府から財政援助を受ける教育プログラム又は活動の範疇において、性別によって参加を排斥され、利益の享受を拒まれ、又は差別を受けることはない。

その名の通り制定は1972年なのですが、2011年に連邦教育省が公表したDear Colleague Letterが学外での性的暴力も対象になると明言し、しかもその表現に"shall"や"must"*3が使われていた*4ため、大学での積極的な取り組みが進むようになったようです。さらに2013年にもDCLが公表され、各大学により厳格な通報者保護等の対応を求めるようになり、教育現場はその対応に追われて「パニックに陥った」とのこと*5

これらの背景には、University of Montanaでの性的暴行事件*6などを受け、大学における適切な対応を求める声が高まっていたことが考えられます*7
条文を読むと必ずしもsexual violence云々、という話ではないのですが、それに起因してほかの学生と同じ条件で教育を受けることができないこと(加害者に対する恐怖や事件に対するトラウマの影響等)は、教育への参加を制限されていたり、同じ利益を享受できていないと解釈する、ということなのだと思います。
DCLで解釈がドラスティックに変わってしまうというのも興味深いところではありますが、こうした取組が必ずしも大学の自発的な取組によるものではなく、連邦政府主導で行われているという点に着目してみたいと思います。

ここで、連邦制度について少し触れておきます。
日本人からしてみると、アメリカの各州は都道府県みたいなものだと思ってしまいがちなのですが、アメリカの州はおのおの三権分立の仕組み(知事や議会はともかく、州独自の裁判所制度も存在しています)を持っています。そのため、むしろそれぞれの州が独立した国であり、50の国が集まって、その権力の一部を連邦政府に委譲してアメリカ合衆国という国が成立している、と考えた方が実態により近い感覚で考えられるかと思います*8。その50の州=国をまとめる根本の文書がアメリカ合衆国憲法であり、連邦政府の権限は外交や軍事、対外・州際通商、貨幣発行、郵便等、合衆国憲法第8条に限定列挙されており、明記のない権限は各州に留保されていると考えられています。
そして教育は、この限定列挙には含まれていない、すなわち、各州がその権限を留保している領域です。公立大学は全て州立(もしくはそれ以下の単位)大学であり、軍関係の高等教育機関を除けば、アメリカ合衆国に「国立大学」は存在しません。
一方で、連邦政府は「教育省」を持っているし、Title IXで見られるような規制権限めいたものも実質的には保持しています。これは、条文にある"receiving Federal financial assistance"という点にからくりがありました。
いくら直接的な権限がないとはいっても、連邦政府は様々な分野で補助金を交付しています。教育もその一部…というか、連邦政府が基本的には権限を持っていない教育分野において、教育省の権限は補助金を配ることに全てのベースがある、といっても過言ではないかもしれません(もちろんその上で様々な規制をかけていくのですが)。
"receiving Federal financial assistance"には連邦政府奨学金も含まれるため、実質的に全ての高等教育機関(一部の怪しい大学は含まれないのかもしれませんが)がTitle IXの対象となります*9。なお、冒頭でご紹介したtimely warningsというのはTitle IXとはまた別の連邦法で、大学は学生・教職員への脅威となり得る犯罪について適宜情報提供しないといけないというClery Actに基づくものですが、これも同様のスキームです。

さて、ではなぜそんなにsexual assaultを騒いでいるのかというと、「5人に1人の女子学生が性的暴行の被害に遭っている」というデータが示されているから、であるように思われます。
たとえばUSA Todayの記事によれば、AAU(アメリカ大学協会)が2015年9月に公表したレポートでは、27大学15万人を対象に実施した調査で、23%の女子学生が入学以来、何らかの性的暴行の被害を受けたと回答しています*10Controversial 1-in-5 sexual assault statistic validated in new national survey | News for College Students | USA TODAY College
このすべてがいわゆるレイプというわけではありませんし(あんまり書くと生々しいので、詳しくは上記記事の下の方にあるグラフをご参照ください)、日本に比べるとその定義が広いというか徹底しているという側面もあるのでしょうが(たとえばパートナー同士であっても、同意を得ずに性的行為を行えばsexual assaultです)、それにしても驚きの数字ではないでしょうか(もっとも、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」によれば日本人の場合でも、女性の6.5%はレイプされた経験があるそうですが…男女間における暴力に関する調査 報告書*11。ただし「在学中の経験の有無」と「これまでの経験の有無」である点に留意)。

ホワイトハウスでも、2014年に"White House Task Force to Protect Students From Sexual Assault"というタスクフォースを立ち上げ、3カ月で"Not Alone"という報告書を公表したほか、同名のウェブサイトも立ち上げています。これにあわせ、教育省からはQuestions and Answers on Title IX and Sexual ViolenceというQ&Aも出されています。
細かく触れると長くなる…というか、教科書の引き写しくらいしかできなくなってしまうのでTitle IXについてはこのくらいにしておきますが、こうしたしっかりした対応も、必ずしも大学発でなく、連邦政府主導であるということは認識しておいてもいいのかな、と思います。

日本ではアメリカの高等教育を成功事例と見る向きが多いのではないかと思いますが(私も最初はそう思っていましたし、いまも半分はそう思っています。後述)、sexual assaultや授業料高騰・学生ローン、高い退学率や卒業後の進路の不透明さなど、アメリカの高等教育セクターも様々な問題を抱えています。むしろ問題だらけといった方がいいかもしれません。そしてその解決策も、大学主導というよりはむしろ政治主導で行われる傾向がある*12ことについても留意する必要があろうかと思います。
アメリカの大学には専門職がたくさんいて、Student Affairsはじめ、様々な分野で先進的な取組を行っている、と思いがちですが、その背景にはそれだけ対策しなければいけない問題が山積していたりだとか、政府による、非常に細かいところまでの規制があったりだとか、そういう背景についても見逃してはいけないと思うのです。
とはいえ、アメリカの強みはその多様性にあり、その部分はいまだに強靱であるとも思っています。StanfordのRichard Scott教授はHigher Education in America: An Institutional Field Approachという論文*13の中で、カーネギー財団の分類によればアメリカの高等教育機関が次のように分類できるとしています。

1. Associate Degree (public or nonprofit) (準学士−公立・非営利私立)30%
2. Associate Degree (for-profit) (準学士-営利)12%
3. Research Universities (including doctoral-granting institutions) (研究大学(博士授与機関)) 7%
4. Comprehensive Colleges (Master’s Colleges and Universities) (総合大学(修士授与大学)) 15%
5. Baccalaureate Colleges (liberal-arts colleges) (リベラルアーツカレッジ(学士授与大学)) 18%
6. Special Focus Institutions (e.g., theological, medical, business, engineering, law, art) (専門大学(宗教、医学、商学、工学、法学、芸術))19%*14

その上でHannan & Freeman*15のGeneralistとSpecialistの概念を援用し、Generalistsが多様な要望に応えるべく様々な内部構造と多くのspecialized programsを持ち、多様かつ変わりゆく環境に対応していけるのに対し、Specialistsは得意分野に注力し、その分野ではGeneralistsを凌ぐと指摘しています (Scott, 2010, p. 8)。さらに、こうした様々な機関の存在が学生にとっては多様な教育を、教職員にとっては多様なキャリアパスを提供し、学生にとっては一カ所でドロップアウトしてもまたやり直すことができる構造になっているとともに、こうした多様性が衝突や難局を生み出す一方、力強さの源泉でもあるともしています (Scott, 2010, p. 55)。

Cultural and structural diversity in higher education are essential for serving the needs of a large, differentiated, and rapidly changing society. Multiple institutional frameworks provide numerous roadblocks but also varied levers for change.*16

これを読んで、アメリカがなんだかんだいって(高等教育に限らず)強いのは、こうした多様性が担保されているからなのではないか、と思わされました。これを維持するためには社会に相応のニーズが必要であって…とか考えていると堂々巡りになってしまいそうですが。。

*1:被害者の意向等もあり、具体的な日時が明らかにされない場合も多いので、必ずしも最近増えている、というわけではないのですが。

*2:20 U.S.C. § 1681 (2013)

*3:法令用語日英標準対訳辞書(平成27年3月改訂版)によれば、いずれも「しなければならない」

*4:その前はせいぜいshouldくらいだったのでしょうか

*5:Jeffrey C. Sun, Lynn Rossi Scott, Brian A. Sponsler, N. (2013). Understanding Campus Obligations for Student-to-Student Sexual Harassment: Guidance for Student Affairs Professionals. LEGAL LINKS: Connecting Student Affairs and Law, 1(1), 1–23.

*6:http://www.huffingtonpost.com/news/university-of-montana-rape/

*7:ところで、こういうのを、政策学?の世界ではpolicy windowが開いた、と言うようです

*8:そのため、日本から知事=governorが表敬訪問すると、自分たちの知事と同格者=一国の元首がやってきたかのように歓迎されてびっくりする、という話も聞いたことがあります

*9:ちなみに、IPEDSのデータ報告義務も同じようなスキームで義務を課して、公表しないと補助金出さない、としているようです

*10:男子学生は4%

*11:個人的には、この質問に限り、なぜ対象を女性に限定しているのかとは思いますが…

*12:政治主導でできるだけいい、のかもしれませんが…

*13:Scott, W. R. (2010). Higher Education in America: An Institutional Field Approach

*14:Scott, 2010, p.7

*15:Hannan, M. T., & Freeman, J. (1977). The Population Ecology of Organizations. American Journal of Sociology, 82(5), 929–964. http://doi.org/10.1086/226424

*16:Scott, 2010, p. 55

高山佳奈子先生の記事に関連して国立大学法人の制度についてちょっと考えてみる

京都大学法学部教授(刑法)であり一部方面ではコスプレ等で有名でもいらっしゃる高山佳奈子先生が、給与明細を(ずいぶん前に)blogに公開したのが(いまさら)炎上しているようです。
産経デジタルのiRONNAが本人の「手記」を含めて特集を組んでいますが、どれも面白いので、読むのであれば4記事すべてを読むことをおすすめします。京大教授の年収940万円は安すぎる?

給与の高低それ自体についてはあまり触れませんが(高山先生もそれを言いたいわけではないのだと思いますし)、いくつか面白い(というのが適当かどうかわかりませんが)ポイントがあるので、高山先生の「手記」の一部を引用しつつ、関係する論点を紹介してみたいと思います。


まずは運営費交付金と私学助成から見てみましょう。

現在、私の所属する京都大学では、収入に占めるこの「運営費交付金」の割合は約3割にまで低下している。これは、かつての有力私大における「私学助成金」の割合とほぼ同等である。「国立」大学とは名ばかりで、実際には教職員は公務員ではないし、経営も民間型に変えられてきているのである。しかも、私大でも私学助成金は削減されている。全国の公立大学も国立大学と同様の経過をたどったところが多いが、特定の専門分野の大学を除き、国立大よりもはるかに苦しい経営を強いられている。

運営費交付金比率を考えるとき、附属病院関係を含めるかどうかで比率が大きく変わってきます(規模が大きくて病院のある大学とない大学で全然違う数字になってしまうのと、大まかには支出と収入が対応しているので、この手の分析をするときは取っ払うのがお約束のように思われます)。ちょっと探して見つけたちょうどいい資料*1教育再生会議の資料のよう)でもやはり病院抜きでの議論をしているので、まずは比較できるように数字を直してみたいと思います。
(旧国立大学財務・経営センターの分析では、旧帝国大学附属病院を有する総合大学、附属病院を有しない総合大学、理工系大学、文科系大学、医科系大学、教育系大学、大学院大学という分類がよく使われていました*2。)

京都大学の運営費交付金比率は34%ですが、病院抜きで計算すると43%となります*3
京都大学ファイナンシャルリポート2015
国立大学全体では、先ほどの教育再生会議資料で運営費交付金収益が1兆100億、学生納付金収益が3400億、寄附金収益、競争的資金等が5500億とのことなので、53%が運営費交付金比率となります。
一方、私学助成(経常経費に占める経常費補助金の額の割合)は、これも教育再生会議資料によれば10.3%*4。たしかに昭和55年頃のピーク時には29.5%を占めていたのですが、ここ30年ほど、緩やかに減少しながら10%前半を維持しているというのが現状です(ここでの私学助成関係の数値は資料左下の注釈にあるように、すべて附属病院を含まない数値)。
つまり、ピーク時(35年前)の私学助成の比率と、附属病院収入を含めた京大の現在の収入における運営費交付金比率はそれなりに近いのですが、若干ミスリーディングな議論ではあるように思います(高山先生も「かつての有力私大における」と書いていらっしゃいますし、病院についてはおそらくご存じないのでしょう)。もっとも、国立と言っても大規模研究大学では*5病院を控除しても運営費交付金比率がすでに半分以下である、という点は変わりません。アメリカでは「州立」と称しつつ州からの補助金が1桁パーセント、という例もあるので、下?を見れば限りはないのですが…


次に、職員の待遇について。

もう1つ教員の給与以前の深刻な問題として、職員の使い捨てと待遇がある。2004年以降、常勤職員は大幅に削減され、従来職員が担当していた作業を教員がするようになり、非常勤職員や派遣職員が重大な職務を任されるようになった。現在、京都大学では、事務職員の大多数がこれらの人々によって占められている。

そして、非常勤の時間雇用職員においては、経験を積んで高い業務能力を備えた人材が次々に5年で雇用を打ち切られる「5年雇止め」の対象となり、新規の契約では交通費がカットされ時間給にも反映されないという問題が起きている。しかもこれらの方々の多くは、そもそもの年収が200万円台に抑えられている。教員の賃上げどころの話ではない。私は京都大学職員組合の役員をしており、組合が大学法人に対する団体交渉において、こうした方々の雇用継続や、極端な低賃金の是正を優先課題にしていることはいうまでもない。

2004年というのは、国立大学が法人化された年です。定員削減は以前からもあったはずですが、法人化以降しばらくも政府の「総人件費改革」の下、法人化されたはずなのに*6国立大学においても定員削減が進められました。法人化前の事情はあまり詳しくありませんが、おそらくその前後を通して、教員はなるべく削らず、その分職員を削減してきたため、教員の支援業務が十分に行えなくなってきていることは想像に難くありません(どこかでそういうグラフを見た気がするのですが見つからず)。その結果、非常勤職員や派遣職員が増加し、本来そのような方にお任せすべきでないような仕事まで任せざるを得ない状況になっているというのは、大なり小なり国立大学共通の状況であるように思われます。
「5年雇止め」というのも、労働契約法で明文化されたいわゆる「雇止めの法理」から潜脱*7するための手段として、国立大学では一般に行われているかと思います。交通費がカットというのは聞いたことがありませんが…。。
経営側としてはお金がないからしょうがない、ということなのでしょうが、重要な仕事までこうした方にお任せせざるを得ないというのはやはり健全な状態とは言えないでしょうし、最低賃金が改正されるたびに非常勤職員の給与表の最低部分が消えていくレベルの給与というのも、これまた健全とは言いがたい部分があろうかと思います。


そして最後に、給与の額の話(ただし職員メイン)。

現行法上、国立大学教職員は民間労働者と同じく労働契約法の適用対象であり、大学法人に雇用されている。したがって、その給与は労使交渉の中で決まることが原則である。ただし、私学助成金の割合よりは高い割合で国の資金を受けているため、独立行政法人通則法も準用されている。

同法は、給与が「国家公務員の給与等、民間企業の給与等、当該……法人の業務の実績並びに職員の職務の特性及び雇用形態その他の事情を考慮して定めなければならない」としており、これについての基本方針を定めた閣議決定の解説によれば、「国家公務員との比較に加え、当該法人と就職希望者が競合する業種に属する民間事業者等の給与水準との比較など、当該法人が必要な人材を確保するために当該水準とすることが必要である旨をその職務の特性を踏まえながら説明するものとする」とされている。

つまり、ここにいう民間事業者である私立大学からかけ離れた水準まで「上がらないように」することが求められている。現状はその逆で、私大どころか、国家公務員と比較しても低い給与水準になっている(ラスパイレス指数)。人材流出は教授だけでなく職員においても生じている。

独法通則法については、特集の別記事で高橋洋一先生が指摘されていた「引用条文が違う」というのはむしろ高橋先生が誤って行政執行法人の適用条文を引用されているので高山先生の方が正しいのですが、京大のラスパイレス指数*8(もどき*9)を見ると、教員はかろうじて国家公務員を超えています(教育職員(大学教員)と国家公務員との給与水準の比較指標 101.7)。*10
職員についても、年齢勘案のラスパイレス指数で95.1と国家公務員より5%低い程度ですが、年齢・地域・学歴を勘案すると98.6となり、国家公務員には届かないものの、あまり遜色のない水準と言えるのではないでしょうか。ちなみに東大は年齢勘案では96.5ですが、年齢地域学歴勘案では86.1*11まで下がり、よくまあこれでまともな人材を確保できているものだなあと思わされます*12

なお、高橋先生は賃金構造基本統計調査の「大学教授」の額やアメリカの例を引いて、

以上、日本の大学教授の給与について、日本の他の職種との関係、アメリカの大学教授の給与との関係をみてきた。あくまで、統計数字で出てくるものは平均的な姿である。それらを見る限り、日本の大学教授の給与は、高すぎる、低すぎるというものではなく、まあまあというものだろう。

大学教授は財務省よりはるかに楽 副業で稼げる時間の余裕はある
と結論づけています。(しかしこのタイトル、MOFと比べんなよ、と思うのは私だけでしょうか…)

個人的には京大教授だから1000万くらいもらってるのかなーと思っていたので、思ったよりは少ない額でしたが*13、まあそんなものか、という範疇の額ではあろうかと思います。
そしてそれ以上に、先生の議論の本質はむしろ職員、特に非正規の職員の待遇にあるように思うのですよね。もちろん給与がすべてではないですし、非常勤職員は(少なくとも本来は)いわゆるパートに近い存在なので、低賃金であること自体が必ずしも批判されるべきこととは限らないのかもしれません*14。雇止めを設けるに至った背景についても聞いたことがあり、それ自体はある程度は首肯できる話ではありました(ここには書きませんが)。でも、理由があるからといって非常勤職員さんに一方的に負担を押しつけるのが適当かという議論は行われるべきと思いますし、ましてやそうした存在の方に重要な仕事をお願いするのは、あるべき姿ではないでしょう。
というわけで、高山先生の「手記」の中でもそのへんに焦点を当てつつ、国立大学の制度の一端をご紹介してみました。

*1:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/bunka/dai3/dai1/siryou4.pdf

*2:参考:http://www.zam.go.jp/n00/pdf/ng003001.pdf

*3:キャッシュフローベース(実収入額)でやるべきか損益計算書ベース(損益計上額)でやるべきかは微妙ながら、今回は教育再生会議資料にあわせて損益計算書ベースとします。この違いについて話し出すと馬脚を現す長くなるので省略

*4:左側のグラフ?表?で計算すると10.6%になりますが、この差は「等」に含まれるGPとかの補助金でしょうか

*5:ほかの収入は学費や競争的研究資金なので、小規模文系・教育大になるほどに運営費交付金比率が上がります

*6:もっとも人件費の原資はほとんど運営費交付金=税金なのですが

*7:と、大学側は言わないでしょうけども…

*8:ラスパイレス指数 - Wikipedia

*9:教育職員については、本来比較対象となるべき教育職(一)の国家公務員が法人化以降は(ほとんど)いないため、「法人化前の国の教育職(一)と行政職(一)の年収比率を基礎に、平成26年度の教育職員(大学教員)と国の行政職(一)の年収比率を比較して算出した指数」を用いています

*10:http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/publication/disclosure/documents/guide/guide_h26.pdf

*11:http://www.u-tokyo.ac.jp/content/400032641.pdf

*12:まあ、本当にまともな人材がいるのか、という議論はあり得ましょうが以下略

*13:1000万が適当であるとか、そういう話をしているわけではありません

*14:ここは難しいところですが…私はそういうニーズもあると認識していますが、とはいえ給料を多くもらうのが困るというのは、扶養がらみの話を除けば基本的にはないですよね

大学の懲戒規定と懲戒権

若干機を逸した感はありますが、記録として残しておいてもいいかなと思ったのでFacebookに書いたものをそれなりに改稿の上、こちらに置いておきます。
『朝霞市少女誘拐事件の容疑者が「卒業取消」処分へ』を学則から考える - 社畜が大手大学職員に転職したブログですでに触れられているので、もういいかなーとも思ったんですけど、それでもやっぱり大学側の対応に疑義なしとしないので…

埼玉少女誘拐事件の容疑者に対する千葉大の対応が議論になっていますが(推定無罪の話については当然のものとしてとりあえず措いておきます)、そもそも教育機関における懲戒の意義ってなんなのでしょうね。

教育機関に関する懲戒について、関係法令を引くと(一部省略)、

校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる*1

校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。
○2 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
○3 前項の退学は…次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
一  性行不良で改善の見込がないと認められる者
二  学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三  正当の理由がなくて出席常でない者
四  学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
○4 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。
○5 学長は、学生に対する第二項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。*2

としているので、教育上必要であること*3は要件なのでしょうけれど、非違行為者*4に対して退学(ないしそれ以下の懲戒)を加えることについては「校長」(大学でいえば学長)の権限として認められている、と言えそうです。

ところで今回の件は、卒業間際というか卒業直後というかに問題が発覚した*5という点が自体をややこしくしています。慶應の大屋先生の下記ツイートもご参照(なお、大屋先生がこのツイートに続けて一通り分析していらっしゃいますので、ご興味あらばそちらもご参照ください)。

さて、千葉大のケースでどうかというと、学則49条3項および工学部規程16条に下記の規定があります。

卒業の認定は,学年又は学期の終わりに,当該学部の教授会の意見を聴いて,学長が行う。

本学部に4年(本学部に転部した学生にあっては,当該転部までの在学期間を含む。)以上在学し,卒業の要件として修得すべき単位を修得した者には,卒業の認定を行う。

他方、学則73条とそれを受けた千葉大学学生の懲戒に関する規程では以下のように規定しています。

本学の規則に違反する行為又は学生としての本分に反する行為があった者は,学長が懲戒する。
2 懲戒の種類は,戒告,停学及び放学とする。

第3条 学生が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合は,停学を命じることができ(る)。
二 学内又は学外において重大な非違行為を行った場合
三 本学の規則等又は命令に違反する行為を行った場合で,悪質と判断された場合
第4条 学生が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合は,放学を命じることができる。
四 学内又は学外において重大な非違行為を行った場合で,特に悪質と判断された場合
六 その他学生としての本分に著しく反した者*6

学位授与権というのは大学の裁量と言ってよいと思うのですが、ここで卒業認定について、規定に存在しない事由に基づいて、少なくとも外形的には卒業要件を満たしている学生に対し、卒業を取り消しないし留保することが果たして可能なのか、という疑問が生じます。憲法とかではないので、規定にない不利益処分をすることが絶対的に不可能とまでは思いませんが、一方で身分に重要な異動を生じる不利益変更であるので、学長の裁量権もある程度の制約を受けると解するのが相当なのではないでしょうか。直接の身分関係に及ばない範囲であれば大学の裁量権の範囲内、身分事項に影響する範囲では裁量ではありつつも、濫用の有無については司法審査に服するといったあたりなのかなあとは思います。
もちろん、適法に行われた懲戒の結果、卒業前に退学になるのであれば全く問題ないでしょうし、卒業(認定)の時点で懲戒について審査中であるので、卒業認定はいったん留保するということであれば、明文の規定がないにしても相応の理由があるとはどうにか言えそうです。

一方、事後の学位取り消しについて、学位規程21条では次のとおり、学士学位の取り消しについては規定がありません(なお、関係規定を読む限り、「卒業=学士学位授与」です)。

修士若しくは博士の学位又は専門職学位を授与された者が,その名誉を汚辱する行為があったとき,又は不正の方法により修士若しくは博士の学位又は専門職学位の授与を受けた事実が判明したときは,学長は,教授会の意見を聴いて,学位の授与を取り消し,学位記を還付させることがある。

上記のグレーさからいうと、被疑事実が確定した段階*7で「名誉を汚辱する行為があった」として取り消せればまだその方がマシなように思います。規則改定が必要ですが、事後的に取り消すものなので、不利益処分の遡及適用ではない、と言う余地もあるでしょう*8。もっとも、事実の判明が学位の授与後なのかどうかという点で疑義なしとしませんが…。。*9

今回の千葉大学の対応は、記事執筆時点では以下の通りです。

 3月29日(火)、工学部の教授会において、本学の「学位授与の方針」では、社会規範の遵守を求めているところ、当該学生の行動は懲戒処分事由が疑われ再考の必要があるため、一旦、卒業認定及び学位授与を取り消し、卒業を留保することを決定しました。
 また、本学は同日、学生懲戒委員会を設置しました。今後は、捜査等のゆくえをまって、当該学生の処分について、検討していく予定です。
 なお、千葉大学学則第14条により、「学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる。」とされており、当該学生の大学における学籍は、「3月31日」まで存続しています。
本学の学生による不祥事への対応について|ニュース・イベント情報|国立大学法人 千葉大学|Chiba University

こう書かれると、「学位授与の方針」が処分の根拠条文のようにも見えるところ、これはあくまで(ディプロマ・ポリシーとも言われるように)ポリシー(倫理規範)でしかなくて、不利益処分の根拠にはならないような気がするのですが…。。
それはとりあえず措くとして、3/31までは在籍していると解釈して懲戒審査を開始するというのは、ウルトラC的ではありますが、ギリギリ間に合ったか、という感じです。一度「卒業」してしまっているにもかかわらず、少なくとも時系列としては遡及して取り消し・留保というのはかなり気持ち悪いですが、適法なものとしてどうにか構成しうる限界事例、といった感じを受けます。

なお、当初報道では遡って停学等の処分とすることで在籍日数不足で卒業できず、というロジックも散見されましたが、さすがにこれは不利益処分の遡及以外の何物でもなく、いくらなんでも無理筋であったと思われます。

また、一部報道で「これで(3月に卒業できないので)留年が決まった」というのを見ましたが*10、あくまで卒業の留保であって、もし懲戒審査終了後に退学相当でないとなった場合には、遡ってかその時点かは別として、しかるべき時期に卒業するのでしょうから、留年という表現は若干違和感を覚えます。
もっとも、千葉大卒業取り消し 事実上の留年、処分検討 埼玉少女誘拐寺内容疑者 | 千葉日報オンラインによれば「事実上の留年」「4月からは休学扱い」とのことなので、今回の扱いとしては、仮に卒業するとしても審査終了後、ということなのでしょうか。学籍を残すのはやむを得ないとして、懲戒審査終了後の扱いは本来慎重に検討すべき事項のように思います*11


そもそも事例自体が相当限界事例な感じがするところ、時間のない中で千葉大としてもいろんな判断を迫られたのだろうなあとは思います。もっとも、そこまでして卒業を留保する必要が本当にあったのか、とも思うのですが。

*1:学校教育法11条

*2:学校教育法施行規則26条

*3:学習環境の整備(のための非違行為者への制裁)とかも含めた広い意味で

*4:非違行為者を「学生…としての本分に反した者」で読むことについては特に問題ないかと

*5:推定無罪原則は措いておきますよ(大事なことなので二回ry)

*6:一部省略

*7:私見では必ずしも判決確定ではなく、しかるべき方法で本人の意思が確認できればそれでよいかと

*8:この点、FB記載内容から見解を改めたところ。なんて言うと偉そうですが…

*9:下記の千葉大の対応から行くと事実の判明は学位の授与前ということになるでしょうが、そちらの構成を取った場合はそもそも事後の取り消しの必要性はなくなります

*10:【女子生徒誘拐】容疑者の留年決定 千葉大学が卒業認定を取消しなど

*11:仮想事例ですが、本人が当初より否認していて、結局懲戒相当でないとなった場合にどうするか、など。

国立大学法人法の改正案

国会に提出されたようで、関係各位におかれてはおつかれさまでございます。
国立大学法人法の一部を改正する法律案:文部科学省

「指定国立大学」(旧称?「特定研究大学」)だけの話かと思ったら、資金運用に関しては各法人(ただし文科大臣の認可が必要)にも解禁のようですね。遊休土地建物の貸し付けも可能になります(要財務大臣協議ですが…)。

以下、技術的部分は省略しつつ条ごとに見てみます(単に「大臣」とあるのは文科大臣を指します)。

  • 9条(国立大学法人評価委員会)「大学の運営に関して高い識見を有する外国人」を委員に任命できることの明文化。指定国立大学は「世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれるもの」(34条の4第1項)で、中期目標の策定に際して「世界最高水準の教育研究活動を行う外国の大学の業務運営の状況を踏まえなければならない」(34条の6)ことから、評価委員会においても外国の大学の業務運営状況について知見のある外国人を加えることができる、ということでしょうか。
  • 34条の2(土地等の貸し付け)「現に使用されておらず、かつ、当面これらのために使用されることが予定されていないものを貸し付けることができる」とのことで、これまで減損処理されていたような土地建物を貸し付けることができるようになります(全法人*1対象、要大臣認可および財務大臣協議)。
  • 34条の3(余裕金の運用の認定)「運用を安全かつ効率的に行う」ことができるとの大臣認定を受けた上で、寄附金等を原資とする余裕金についての運用範囲が拡大されます(認定制度は全法人対象、指定国立大学は認定なしに運用可能(34条の7)。財務大臣協議不要)。詳細の指定は政令によるようですが、法律案を読む限りでは株式を除く有価証券(外国債等?)や投資一任契約が新たに対象となるようです。
  • 34条の4(指定国立大学法人の指定)「国立大学法人のうち、当該国立大学法人に係る教育研究上の実績、管理運営体制及び財政基盤を総合的に勘案して、世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれるもの」について、評価委員会の意見を聴いて大臣が指定。これにより、指定国立大学法人では以下の34条の5〜8の対象となります。
  • 34条の5(研究成果を活用する事業者への出資)「当該指定国立大学法人における研究の成果を活用する事業であって政令で定めるものを実施する者に対し、出資を行うことができる」ということで、大学発ベンチャーに直接出資が可能になるという規定でしょうか。なお、この出資に際しては大臣認可および財務大臣協議が必要です。
  • 34条の6(中期目標に関する特例)9条でも触れましたが、大臣は「指定国立大学法人の中期目標を定め、又はこれを変更するに当たっては、世界最高水準の教育研究活動を行う外国の大学の業務運営の状況を踏まえなければならない」とのこと。趣旨はわかりますが、実際にどう運用するのでしょうか。たぶん指定国立大学法人自らが「踏まえている」というエビデンスを提出するんでしょうね。
  • 34条の7(余裕金の運用の認定の特例)34条の3で触れたとおり、指定国立大学法人では同条による認定なしに余裕金の運用が可能となります。
  • 34条の8(役職員の報酬、給与等の特例等)役員・教員*2の報酬・給与等について、「世界最高水準の高度の専門的な知識及び経験を活用して遂行することが特に必要とされる業務に従事するもの*3について国際的に卓越した能力を有する人材を確保する必要性」を勘案した上で報酬・給与等を支給できるようになるほか、教員の「給与その他の処遇については、当該職員が行う教育研究の内容及び成果についての国際的評価を勘案して行うものとする」とのこと。要するにトップレベル研究者を引っ張ってくるにあたって給与を増やせるようにしようということと、教員の給与について教育研究の国際的評価を勘案しろ(「できる」ではなく「ものとする」)、ということですね。

34条の8については高度専門職についての規定はしないんかい、とちょっぴり思わなくもないですが、そもそもろくに定義もできていないですし、必要性も未知数ですからね…

*1:大学共同利用機関法人含む

*2:「指定国立大学法人の専ら教育研究に従事する職員」。以下本条の解説について同じ

*3:「者」じゃなくていいのか…? と思ったけど、対象をさらに特定する場合に「もの」を使う場合もあるんですね。「者」と「もの」との違いについて - 今日も重馬場 条文の読み方(その5)-者・物・もの | 出る杭はもっと出ろ!

サウジアラビア奨学金の件(追加)

先日書いたサウジ奨学金の件(サウジアラビアの奨学金削減がアメリカの大学に与える影響 - 気が向いたら書く。)、Inside Higher Edが記事にしていましたのでご紹介までに。
Will U.S. colleges and universities see decline in Saudi-funded students?

少し前から奨学金の削減というか適正化というかの動きはあったようで、昨年末を境に比較してみると、すでにIEP (Intensive English Program:ノンネイティブが大学・大学院の授業を受ける前に通う大学附設的な英語学習プログラム)に来ているサウジ人学生の数が10-20%減少しているとのこと。
アメリカの大学もなかなか情報が入ってこなくてやきもきしている様子がうかがえます。Enrollment Managementの観点からも注目されているようで、記事の最後にはアイダホ州立大のEM担当副学長補(Associate VP)のコメントも紹介されています。

“These sponsored students come in paying the full out-of-state tuition rates. It’s not like oh, OK, well, we’ll make inroads with this other country that is looking to sponsor all their students to study abroad.”
In other words, he said, “there’s not a replacement for the niche that Saudi Arabia was holding.”

こういう状況も"niche"って言うんですね。「隙間」ってイメージが大きかったですが、適材適所の「適所」という意味もあるようで、ここでは後者でしょう。
やっぱり、out-of-state tuitionを、しかも(自腹じゃなく)国で払ってくれて、さらにすべての学生の面倒を見てくれるというのは大学にとってとてもおいしい存在ですよね…

あと、奨学金の中身がちょっとだけ上記記事のリンク先のロイター記事に載っていたのでご紹介。

In addition to covering the full cost of university tuition, the program usually gives recipients a monthly stipend and pays for them to take family members abroad with them. Women who receive the awards are required to travel with a male guardian, who also receives benefits.

Saudi tightens rules for scholarships to study abroad | Reuters

サウジってどうも女性をおよそ行為無能力者のように扱っている国のようなんですが、女性がひとりで外国に行くことはできなくて*1、男の身内(既婚なら夫、未婚なら男兄弟など)と一緒に行かないといけないし、逆に夫が留学するなら妻もついて行くのが当たり前のようです。
そうすると上記のような設計にせざるを得ないんでしょうね(それで女性の留学をあきらめさせるというのも不合理ですし*2)。
ふと、かつてIEPの同じクラスにいた、文字通り目以外を見せないブルカを着た奥さんと、たぶんその付き添いで来ている旦那さんがいて、彼の英語はちっともわかんなかったなあ、というのを思い出しました…。。

*1:そもそも単独の外出もダメっぽいですが

*2:シャリーア的にどうかはともかく

π=3.14の合理性

あらかじめ申し上げておきますが、π=3.14が間違いということは承知しております。

有効数字がバズってるらしいというのをちらっと見かけてなんの話やら、と思ったら円周率の話であるようです。
算数の問題「円周率を3.14とするとき、半径11の円の面積を求めよ」の解を379.94とするのは誤り? - Togetterまとめ
[2/24追記] 円周率の問題に便乗する。半径11の円の面積はいくつか?

議論全部は読んでないけど、要するに
1) 単純にかけ算として11×11×3.14=379.94
2) 3.14が「円周率」と明言されている以上、「円周率を3.14とする」は近似なので有効数字3桁で380が正答
2-2) 11×11×πを有効数字5桁で表せば380.13
ということでしょうか。

わたしは算数のレベルなら1)でいいじゃん?と単純に思ってしまいますが、他方、「円周率を3.14とする」という表現がいかにも気持ち悪いというのも*1なんとなーくわかるような気もしないではありません。

円周率を習う段階で有効数字やら近似やらを一緒に教え込むのはたぶん無理なので、どなたかがおっしゃっていた「有効数字相当の桁を示して概数で計算させろ」というのが数学的に正しく、かつ学習指導要領内で実現できる整合性のとれたあり方なんだろうな、とは思います。
ただ、これ、目的が「計算をさせること」「円の面積を求めること」「円の性質を知ること」のどこにあるかという話のような気はするのですよね。

計算練習の合理性はないではないと思うんです。
小学生の頃さんざん計算させられて、3.14×nをなんとなく覚えたような記憶がありますし。
ただ、その題材にπを使うのが適当かという話はあるでしょうし、πを使う必然性もないですね。

円の面積を求めるときは、概数3にしても大勢に影響はない(というかそれこそが概数の意義であって、かつ正しい姿勢かも?)ですよね。
これは2002年実施の学習指導要領(円周率は3 - Wikipedia)の精神でもあったのかもしれません。リンク先にあるように相当誤解されていましたが。

で、円周率を扱うときって、面積を求めるだけじゃなくて、実際に半径と円周を比べてみて3倍よりちょっと大きいとか、そういう話もすると思うんです。そういうときに円周率をどう教えるか、というところを考えないといけないんじゃないのかなーと。円周率ってわりと直感的にわかる、「数学への入り口」であるような気がするんですよね。
その意味で、2002年の「円周率は3」(手計算のときには3を用いる)というのは合理的であったかもしれないな、とちょっと思ったのでした。とはいえ、そこでも「円周率は3.14と教える」ということにはなっていたようですが。。

結局、円周率というのは3.14から始まる無理数であって、3.14を使うのであれば上から3桁より下は不正確な数字しか出ないよ、と教えるのがいい、のかなあ。小学生にわかってもらえるかなあ…

*1:この議論がバズるのも結局はそこのような気がなんとなくしている