国立大学法人法改正案(学校教育法等の一部を改正する法律案)を読んでみる

学校教育法等の一部を改正する法律案が閣議決定されましたので、国立大学法人法の改正関係について概観してみたいと思います。以下、条項名のみの場合は国立大学法人法(原則として改正案反映後のもの)を指します。

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A.一法人複数大学制度と大学総括理事の新設

国立大学法人に、理事長と学長を別個に置くことができるようになります。この場合の学長は、法人法上、法人の理事である「大学総括理事」と整理されることになります。

ここで、大学総括理事は学校教育法第九十二条第三項*1に規定する職務を行う理事と整理されています。要するに学長に相当する者ということですね。

以下、非常にややこしいので、コンメンタールとしては国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議による「国立大学の一法人複数大学制度等について 概要」がおすすめです。

A−1.一法人複数大学の場合

一法人複数大学の場合、その設置する国立大学の全部について大学総括理事を置く場合、法人の長として理事長を置くことになります(第十条第一項)。

なお、反対解釈として、一部の大学についてしか大学総括理事が置かれない場合、法人の長たる学長(法令上は機構の長であっても学長です)と大学総括理事が併存します(要するに国立大学法人東海国立大学機構学長が機構全体を統括(するとともに、名古屋大学総長としても振る舞うことになるでしょう)と東海国立大学機構の大学総括理事である岐阜大学長がいることになります)。また、一法人複数大学で学長がひとりしかいない場合も法令上は想定されています(実務上は無理だと思いますが…)。

A−2.一法人複数大学でない場合

一法人一大学の場合(これまでの形態のまま)でも(「その他その管理運営体制の強化を図る特別の事情がある場合には」)、大学総括理事を置くことができるようになります(第十条第二項)*2。第十条第一項により、この場合の法人の長は理事長となります。

A−3.大学総括理事の任命

大学総括理事の任命に際しては、学長選考会議の意見を聴いた上で、文部科学大臣の承認を得て、学長が任命します(第十三条の二)

なお、「学長選考会議」が法令上「理事長選考会議」と読み替えられるべきかについては、4機構への読み替え規定である第二十六条に次のような規定があることを考えると、学長から理事長への読み替えだけでは「理事長選考会議」への読み替えは行われないと見るべきかと思います*3

この場合において、これらの規定中「学長」とあるのは「機構長」と、「国立大学法人」とあるのは「大学共同利用機関法人」と、「学長選考会議」とあるのは「機構長選考会議」と読み替える

この承認については、通常の学長任命相当であることから大臣承認としているものと思われます。実際の運用としては通常の学長任命同様、学長選考会議の申出に基づき、いわば形式的に承認ということになります(第十三条の二第二項)。

なお、そもそも大学総括理事の設置に関しては文部科学大臣の承認が必要です(第十条第四項)。実務上は任命の承認と同時ということになるのでしょうか。このあたりは施行通知に書かれることになりそうですね。

A−4.経営協議会

一法人複数大学の経営協議会については、法人に一つのみ置かれます(第二十条第一項)。大学総括理事は経営協議会の法定委員となります(第二十条第三項)。
それ以外の学内委員の構成については「理事長が指名する理事及び職員(読み替え後の第二十条第二項第二号)」としか規定がありませんので、複数大学の場合にどのような構成にするか(大学間の比率等)は理事長の裁量となります。

A−5.教育研究評議会

教育研究評議会は、一法人複数大学であっても大学単位で置かれます(第二十一条第一項)。大学総括理事は法定委員となり、学長相当者として議長となります。理事長も法定委員ですので、ここではある種理事長と学長の逆転が生じているのがやや興味深いところです(教育研究評議会が個別の大学に置かれるという性質上、当然かもしれませんが)。

なお、第二十一条関係では学長から理事長への読み替えが第二十一条第二項第四号、第三項及び第五項では行われないことになっています(第十条第一項)。
この読み替えを適用すると次のようになります(読み替え部分太字、読み替えない部分イタリック)。

(教育研究評議会)
第二十一条 国立大学法人に、当該国立大学法人が設置する国立大学ごとに当該国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として、教育研究評議会を置く。
2 教育研究評議会は、次に掲げる評議員で組織する。
 一 理事長
 二 理事長(当該国立大学に係る大学の長としての職務を行う大学総括理事を置く場合にあっては、理事長又は当該大学総括理事)が指名する理事
 三 学部、研究科、大学附置の研究所その他の教育研究上の重要な組織の長のうち、教育研究評議会が定める者
 四 その他教育研究評議会が定めるところにより学長(当該国立大学に係る大学の長としての職務を行う大学総括理事を置く場合にあっては、当該大学総括理事。次項及び第五項において同じ。)が指名する職員
3 前項各号に掲げる者のほか、当該国立大学に係る大学の長としての職務を行う大学総括理事を置く場合にあっては当該大学総括理事を、学校教育法第九十二条第二項の規定により副学長(同条第四項の規定により教育研究に関する重要事項に関する校務をつかさどる者に限る。)を置く場合にあっては当該副学長(当該副学長が二人以上の場合には、その副学長のうちから学長が指名する者)を評議員とする。
5 教育研究評議会に議長を置き、学長をもって充てる。

最初新旧対照表だけ見て意味不明だったのですが、第二十一条第二項第三号で学長を大学総括理事に読み替えているために、関係部分については理事長には読み替えないという趣旨のようですね。法令執務は深淵です…*4


B.複数学外理事の法定

もともと理事・監事には一人以上の学外者(「その任命の際現に当該国立大学法人の役員又は職員でない者」)を含めることとなっていましたが(第十四条)、理事の員数が四人以上と法定されている国立大学法人において、学外者を二名以上とすることとなり(第十四条第二項)、この際に一人以上の非常勤学外理事を置く場合は、理事の員数を一人増やせることになります(別表第一備考第四号)*5


C.認証評価の結果を実績評価に活用(?)

国立大学法人に係る評価機構の評価に際し、認証評価の結果を踏まえて実施するよう要請することが新たに規定されました(第三十一条の三第二項)。

ここについてはあまり詳しくありませんが、認証評価の結果を実績評価に活用することが法定されて、少しは楽になるということでしょうかね。たぶん次のようなエントリをさっそくアップされているid:samidaretaro先生が詳しく書いてくださるでしょう(何

kakichirashi.hatenadiary.jp


D.指定国立大学の特例

一法人複数大学が指定国立大学と非指定国立大学を含む場合、当然に法人が指定されるのではなく、法人全体もしくは一部の大学のみを指定ということがあり得、どうするかは法人の判断とする規定です(第三十四条の九)。

この場合、法人セグメントをどう切り分けるかは「国立大学の一法人複数大学制度等について」(平成31年1月31日 国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議)でも明示されておらず、どういう運用にするかが注目されます。これも施行通知待ちでしょうか。

 


その他、細かいところはいろいろありますが、ひとまずこんなところでしょうか。
何かのご参考になりましたら幸いです。

 

…こういう読み替えが多い法改正って新旧対照表を読み解くだけでも大変なのですが、改正法の「本文」って「○○を△△に改める」の方なんですよねえ*6。私は法律を読んでもじんましんが出ない体質ではありますがw、こういう改正のタコ部屋には行きたくないこうやって法改正を裏側で支えるみなさんのご努力には頭が下がるばかりです。

*1:学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。

*2:この関係で、大学総括理事の設置の有無にかかわらず、各国立大学法人は学長選考会議規則の整備が必要となるものと思われます

*3:各法人の判断で「通称」を設けることは否定されないでしょうが

*4:もともと第三十五条に定める独法通則法の読み替えるところと、準用する以上当然に読み替えるべきところあたりの話はもはや素人には意味不明であります。参考:https://home.hiroshima-u.ac.jp/hirano/nyumon/hojinho.htm

*5:なお、従来どおり、この員数は上限です

*6:なお本文はこちら。http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/02/12/1413437_03.pdf