公選法と署名運動

とりあえずメモとして。

ホリエモンが署名したとかで、新都知事とつくろう、TOKYO自転車シティが話題になっていますが、以下の公選法の規定に抵触しないのか?という話が一部twitterで話題になっていたので、関連判例を探してみました。

(署名運動の禁止)
第百三十八条の二  何人も、選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人に対し署名運動をすることができない。

(以下、…及び改行部分は一部省略の場合あり。強調は引用者による)

東京高等裁判所昭和44年(う)第32号
昭和46年10月4日第三刑事部判決
(政党名義の物価値上げ反対の署名が公選法138条の2に違反するとされた事例)

公選法14章の3の規定は)政党その他の政治団体が政治活動を行なうことは本来なんどきといえども自由であるべきであり、むしろ公職に就く者の選挙に際しては、一層その活動が活発であることが当然であることにかんがみ、選挙期間中であつても政治活動を行なうことができることを明らかにするとともに、他面、次に述べるようにその政治活動は間接にはその政党その他の政治団体所属の候補者の当選に有利に作用する性質を有することがあるため、これを無制限に許すときは実質において選挙運動に近い効果を生ずることになりかねず、かたがたいずれの政党等にも属しない候補者との著しい不均衡を生ずるおそれもあるので、これに一定の規制を加えることとしたものと解される。…およそ政党その他の政治団体の政治活動がその政党等の政策に共鳴しこれを支持する者の増加を図ることをその主要な目的の一つとしていることを考えると、その政治活動の結果として支持者が増加し、ひいてその政党等に所属する候補者の当選に間接に有利に作用することがあるのはその性質上認めざるをえないところであるが、それは政治活動に当然随伴する効果であつて、政治活動の概念と選挙運動の概念とを区別しこれに対する取扱を異にしている公職選挙法の建前からすれば、そのことを理由としてこのような政治活動が直ちに同法にいう選挙運動にあたると解すべきでないことは明らかである。

従来、選挙運動の定義としては、一定の議員候補者を当選させるため投票を得または得させるため直接あるいは間接に有利な諸般の行為をなすことをいい、直接に投票を得または得させる行為に限定されないとされているのであるが(大審院昭和四年(れ)第九八一号同年九月二〇日第一刑事部判決、刑集八巻四五〇頁、同昭和二年(れ)第一四八九号同三年一月二四日第一刑事部判決、刑集七巻六頁等参照)、…この定義を文字どおり広く適用すると政治活動もまた当然選挙運動に該当することとなつて、明らかに法の趣旨を没却するに至るから、右の定義中の「間接に」という文言はその点を考慮し限定して解釈する必要があるといわなければならない。すなわち、その行為が単にその政党等の支持者の増加を図りひいてその所属候補者の当選に有利に作用するという程度のものであるならばそれは単なる政治活動であると解すべきであり、その行為がその程度を越え、特定の候補者への投票により強く結びつくような形態をとつた場合にはじめて選挙運動たる性質を帯びるに至ると解するのが相当である。

政党その他の政治団体が選挙期間中に政治活動の一つとして署名運動を行なつても、それ自体は禁止されていないこと同法一四章の三…の規定からみて明らかであり、かつ政党活動と選挙運動との関係につき前述したところよりすれば、政党等の政治活動としてなされた署名運動についても、それが前記法条による禁止の対象となるのは、単なる政治活動の程度を越えて選挙運動の性質を帯びるに至つた場合に限ると解すべきであり、右一三八条の二がその禁止する署名運動を「選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて」するものと限定して規定しているのもこの趣旨を明らかにしたものと解される。

特定の候補者を支持しまたはこれに投票する旨、あるいはこれを支持せずまたはこれに投票しない旨のなんらかの形での意思表示を内容とする署名を求める行為がここで禁止される署名運動に含まれることは疑いがない。けだし、この場合は、口頭の意思表示の場合と比較して、署名者が自らのした署名という形による意思表示に自ら心理的に拘束される度合が強く(多くの場合、署名運動が多数人の署名を連記する署名簿によつて行なわれ、その結果各人の署名したことが他の者にも了知される関係にあることにも注意する必要がある。)、選挙人の自由な意思による投票を妨げ、特定候補者に対する投票に強く結びつく危険があると考えられるからである(名古屋高裁昭和三五年一一月三〇日判決、刑集一三巻九号六四五頁参照)。

署名運動…により同党に対する支持者が増え、それが間接に同党所属の候補者の当選に有利に働くことがあつても、同じことは政党その他の政治団体の許された他の政治活動についてもいえることであるから、これをもつて直ちに同法一三八条の二の禁止する署名運動だとはいうことができないであろう。たとえば、駅前広場その他の公共の場所においてこの種の署名運動が行なわれても、それは前述した許された政治活動に属し、禁止さるべき筋合いのものではないと解される。

署名運動のもつ右の効果にかんがみると、これに他の要素が付加され結びついた場合においては、特定の候補者に投票を得しめるための選挙運動たる性質を帯びやすいことも認めざるをえないところで、もしそれが右のようにして選挙運動たる性質を有するに至り、しかもこれを戸戸について行なうということになれば、それは同法一三八条二項が同条一項の戸別訪問に該当するものとみなしている政党その他の政治団体の名称を戸別に言いあるく以上の効果があるともいうことができる。そして、右のように政党その他の政治団体の名称だけを戸別に言いあるく行為すら公職選挙法が禁止していることを考えると、本件のような署名運動が選挙運動の性質を帯びる場合にこれを戸別に行なうことも、これを禁ずるのが同法の趣旨に合致すると解すべきであり、換言すれば、同法一三八条の二が署名運動を禁止している趣旨の中には、このように戸別訪問の禁止を免れることとなる場合をも考えて、この種の署名運動(これを第二の型の署名運動という。)をも禁止する趣旨をもあわせ包含していると解するのが相当であつて、このことは、同条が新たに設けられた際の国会における論議からも窺われるところである。

というわけで、主体が政治団体だったら冒頭のような署名も問題ないんですかねぇ。
他方、公選法138条の2では「何人も」と規定しているわけですので、政治団体であるか否かでこの部分の結論が変わる必然性もないようには思えます。
とりあえずメモ。