山本裕子さんへのreply(河野太郎代議士の問題提起に関連して)

学振RPDの山本裕子さん@香川大がresearchmapで例の河野太郎代議士のもろもろをまとめて分析していらしたので、おーすげー!と思いながら眺めておりましたら、いくつか気づいた点がありました。
先にご本人にメールさしあげたところ、ぜひオープンディスカッションで!とのことだったので、若干改稿の上こちらで公表いたします。

つか、わたし、高等教育関係の研究の真似事こそちらっとしていますけれど、簿記2級と3級持ってるくらいで、ぜんっぜん財務の専門家ではないし、人事の専門家でもないのですけどね…
まあ、こうやって議論が盛り上がる & fact-based discussionが行われることは良いことだと思うので、間違いを恐れず出していこうと思います。ので、間違いなどお気づきの際にはコメントなりでお知らせいただければ幸いです。


○福利厚生費と人件費減少の件
福利厚生費については、少なくとも法定福利費については人件費に含まれています。
たとえば東大のH27財務諸表を見ると、教員人件費は53,597百万円(p.4)ですが、これは給与、法定福利費、退職給付の合計額(p.46)です。
おそらく各大学とも同様の決算処理をしていると思われます。

ところで、ここで言う「法定福利費」ですが、これは「法定」と言うだけあって、法律上事業主が支払義務のある社会保険料(健康保険・年金)と雇用保険料の事業主負担分、労災保険料(これは全額事業主負担)だけのはずです。
高齢化もさることながら、社会保険料、とりわけ年金の部分は毎年料率が上がってきたので事業主負担は増えていますし、雇用保険労災保険については国の時代は支出がなかったはずなので、完全に純増です。
なお、山本さんが教育経費・研究経費の中に福利厚生費がある、とツイートされていますが、これは(少なくとも大部分が)健康診断費用と思われます。

なお、国立大学協会の資料(p.32)を見ると、附属病院を除いた人件費については教員・職員とも常勤は減少、非常勤は増加(トータルでは減少)で間違いないようです。
(なぜ病院を除くかというと、病院の赤字を補填していた運営費交付金が徐々になくなり(いまは0になっているはず)、7対1看護加算等の診療報酬政策もあって、病院は増収のために人を増やしていることもあり、一緒に議論できないからだと思われます)

人件費が減っている、という点については、運営費交付金や定員の削減(※)等もあり、少なくとも常勤については人数そのものが減っているはずなので、その減少分が福利厚生費の増加分を上回っているということではないかと思います。
この点、山本さんの「統計2」のデータでもH16→26で常勤教職員の数が3000人以上減少していることからも確かめられます。
国立大学法人化後も国家公務員同様の定員削減が適用されていました。いまも「承継職員」と通称?される、退職金が文科省から措置される「枠」が変わらず存在しています。このために退職金の引き当てはできないし、人事給与制度のドラスティックな改革が難しい(もっともそこが法定されているわけではないので、困難を承知で進めないわけではないですが。。)のが現状です。

さらに、高齢層を中心に給与の減額改定や給与構造の改訂(ベース給を減らして都市手当を増やし、地方は低く、都市は高くすることで地域ごとの民間との給与格差の改善を図った)も行われているので、後者はともかく前者は人件費減の要因になっているかと思います。もっとも、現給保障があるのでその効果は相当程度減殺されている可能性があります。


○教職員数の件
これは(もとの統計を見ないとなんとも、ではあるのですが)おそらく非常勤の有無ということで合っていそうな気がします。
河野太郎代議士のblogのデータの出元がどこなのかよくわかりませんが…
(ちなみに、この手の調査で一番信頼の置けるものは学校基本調査です。統計1のH26学生数・教員数は学校基本調査の数値と一致したので、たぶん統計1は学校基本調査が出典と思われます)


○法人化後の業務について
中期目標・計画などの評価関係や、安全衛生関係の業務は法人化によって純増した業務です。が、その業務を非常勤職員が担うわけではなく、常勤職員の仕事がそちらの方にシフトして、表現はよくないかもしれませんが、非常勤職員に任せてもよいような仕事を(非常勤を増やして)お願いする、ということになります。
(上記のように常勤職員の定員削減がかかると、その傾向がいっそう進む、ということになります)

そのため、非常勤が増えるから一人あたり年間給与額が上がるという議論は直ちには妥当しないと思われます。もっとも、減少理由もわかりませんが…
(一人あたりの労働時間が短くなったという仮説はあり得ますが、それを説明する要因が特に見当たりません)


○人員配置の「手厚さ」について
教員数と職員数を比較するというのは一見妥当しそうなのですが、学生数や予算規模、法人の大きさといったファクターも出てくるので、一概には言えません。
むしろ、研究支援者数のデータ(国大協データのp.33)を見れば、あまり十分な状況でないと言えるかもしれません。
山本さんもツイートされていますが、古井先生のデータも同様のことが言えるかと思います。

もちろん、業務改善の余地はまだまだあると思うので、そのへんをうまく工面して非常勤職員を減らす余地はあるかもしれませんが、そもそも法人化によっていろいろな業務量が増えていて、競争的資金や補助金の増加、監査の厳格化等によって(諸先生方がおっしゃるとおり)余計な事務仕事が増えている面もあり、ドラスティックに支出を減らすのは困難ではないかというのが個人的な感想です。


(以下、山本さんのツイートを見て新しく書いた分)
○「受託研究費」について
どっかで書いたよなあ、と思ったら、3年前のクリスマスwに弊はてダで書いているのですが*1、国立大学会計基準って基本的には普通にやってたら利益が出ないというのが基本精神なので、ずいぶんテクニカルな操作をしています。
そのへん、細かい話をご覧になりたい方は前のエントリとか、東大のフィナンシャルレポート(リンク先の下の方)をご覧くださいませ。ある程度会計がわかる方には新潟大の説明資料もよろしいかと。
そしてこの項、具体的に書けば書くほど馬脚が自分で見えるのでw、詳しい人誰か教えてください。ほんとに。

受託研究費ですが、これもお金をいただいた時点では「研究しないといけない義務を負った」ということで、負債として「前受受託研究費等」を計上いたします。東大H27では5,997百万円(以下数字は東大H27財務諸表による)を計上しています。
そして、受託研究を実施する上での研究機器の購入とか人件費とか、いろんなものに支出するごとに費用が発生するわけですが、これを受託研究費(34,843百万円)として処理する一方、その見合い(+間接経費分、かな?)の前受受託研究費等を「受託研究等収益」(42,383百万円)に振り替えます。
負債に比べると費用と収益の額が大きいですが、これは年度を超えた分だけ財務諸表に出てくる(同一年度で契約が完結していれば、年度末の負債には計上されていない)から、だと思います。


○「雑費」
これは、たぶん勘定科目の「その他の雑費」の累計のような気がするんですが、その名の通りほかの勘定科目に分類できないもろもろが入ってくるので大きく見えるのかもしれません。
あんまり「その他の雑費」って使わない方がいいんですけど、どうしてもそれにしか分類できないものってあるんですよねえ…。。


○「一般管理費
教育研究支援経費との区分けはそれこそ決算担当にでも聞かないとわからないような気がしますが、たぶん本部関係、とりわけ総務とか人事とか財務とか、そういうところで使ったお金かなーと思います。
少ないに越したことはないのですが、一方でこういう機能がないと組織として成立しないというところもあり。


で、山本さんも「額が大きいから…0.1%の手数を省くだけで」とおっしゃるとおり、「とにかく額が大きいからちょっとくらい減らしたって大丈夫だよね(はぁと」といってざいむしょーの中の方は運営費交付金減らしに来るのです。
もっとも、もはや単一の項で兆単位の予算なんて福祉予算は別とすれば義務教育費国庫負担金と国立大学法人運営費交付金くらいじゃないかと思われるので(どっちも文科省!)、しかも確固たる積算根拠のない後者を減らしたくなる気持ちはわかるのですが。

ただ、これを減らすと、人件費はそう易々と削れませんし、建物の修繕とかもしないといけないし(むしろ施設整備費補助金は法人化後ぜんぜんつかなくて困っているくらい)、光熱水費だって(特に電気代)増える一方だし、そうなるとむしろ大学や部局の執行部としては「研究費の額が大きいし、優秀な人は科研費とか受託研究取ってこれるんだからちょっとくらい…」って減らしてもおかしくはないと思うんですよねえ。
もちろん、無駄を省くことは常に追求していかないといけない(し、まだその余地は残されているはず)のですが。

*1:クリスマスに何やってんだここの筆者w