損益均衡が大前提の会計基準

詳しくは前述の京大ファイナンシャルレポート2013のp.28をご覧いただくとわかりやすいのですが、会計基準では普通にやってたら損益が均衡する作りとなっております。
例えば固定資産(3年償却)取得時に、企業であれば
【取得時】
(借)固定資産 30 (貸)現金 30
減価償却
(借)減価償却費 10 (貸)減価償却累計額 10
と仕訳して、減価償却中は10の費用が発生していくわけです。

一方、会計基準の場合、そもそもお金を手に入れた段階ではそれは収益にはなりません。
【運営費交付金受領時】
(借)現金   30     (貸)運営費交付金債務 30
国としても無条件でお金をあげているわけではないので、大学で言えば教育や研究を行う「義務」とみて、これを債務として計上します*1

また、運営費交付金によって償却固定資産を取得すると、次のように相当額の運営費交付金が留保されて、減価償却時に減価償却費に充当されることになります。
【取得時】
(借)固定資産 30     (貸)現金 30
  運営費交付金債務 30   資産見返運営費交付金等 30 (負債項目の振替)
減価償却(3年償却とする)】
(借)減価償却費(費用) 10       (貸)減価償却累計額(資産) 10
  資産見返運営費交付金等(負債) 10   資産見返運営費交付金等戻入(収益) 10
この時、減価償却費10の発生に対して資産見返運営費交付金等戻入(名称からしてなんのこっちゃですが…)、として10の収益が発生し(負債の収益化)、当期のほかの収益の有無にかかわらずこの減価償却はバランスします。つまり、減価償却しても(実質的に)費用が発生しない仕組みになっているということですね。

普通の企業会計からすると不思議な仕組みではありますが、減価償却費に対する売り上げが見込まれない以上、これにより、基本的には収支バランスというのが会計基準の大前提です。
そしてこれは、運営費交付金に限らず、およそ大学に入ってくるほとんどのお金(授業料、補助金、受託研究費、寄附金…)について同じような処理をしています。

この際、何が実質的な「利益」となるかというと、京大のファイナンシャルレポートにもあるように「業務の効率化や経費削減など」で抑えた支出額が「本来の利益相当額」となるわけです(例の「3000万円」のところ、ですね)。
ここは経営努力ですので、この部分を各法人の本質的な利益と見るのは会計基準の精神にも叶うところではあります。少なくとも、国立大学法人間での経営努力の一指標として、「本来の利益相当額」を用いることは理にかなっているとは言えるでしょう(そもそもの予算規模の問題は考慮しなければいけないでしょうが)。
一方(これは制度の問題ではあるのですが)、先ほど見たように巨額の「損益外減価償却累計額」がある以上、「本来の利益相当額」も「作られた利益」でしかないと見ることも可能だとは思います。独立した法人としては減価償却まで含めてバランスすべきと考えますが、そこが「国が責任を見る」という名目のもと、P/L*2の外に追いやられてしまっているからです。


うーん、結局あまりわかりやすくならなかった気がしますが、一応これで完結ということで…
なお、筆者は会計基準に関する一応の知識はありますが、財務担当ではありませんし、上記の内容も(資料に当たるなどして正確にするよう努力はしていますが)必ずしも正確でない可能性はございますのであしからずご了承いただけますと幸いです。

*1:この債務を何らかの形で収益に転換するわけですが、運営費交付金の場合は、その方法は期間によるもの(これが一番多いか)、業務達成を基準とするもの(プロジェクトに対する交付金とか)、費用進行によるもの(退職金とか)、などがあります。

*2:ツイートではB/Sと書きましたが、いちおうB/Sには計上されているので訂正