国立大学法人法改正案(学校教育法等の一部を改正する法律案)を読んでみる

学校教育法等の一部を改正する法律案が閣議決定されましたので、国立大学法人法の改正関係について概観してみたいと思います。以下、条項名のみの場合は国立大学法人法(原則として改正案反映後のもの)を指します。

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A.一法人複数大学制度と大学総括理事の新設

国立大学法人に、理事長と学長を別個に置くことができるようになります。この場合の学長は、法人法上、法人の理事である「大学総括理事」と整理されることになります。

ここで、大学総括理事は学校教育法第九十二条第三項*1に規定する職務を行う理事と整理されています。要するに学長に相当する者ということですね。

以下、非常にややこしいので、コンメンタールとしては国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議による「国立大学の一法人複数大学制度等について 概要」がおすすめです。

A−1.一法人複数大学の場合

一法人複数大学の場合、その設置する国立大学の全部について大学総括理事を置く場合、法人の長として理事長を置くことになります(第十条第一項)。

なお、反対解釈として、一部の大学についてしか大学総括理事が置かれない場合、法人の長たる学長(法令上は機構の長であっても学長です)と大学総括理事が併存します(要するに国立大学法人東海国立大学機構学長が機構全体を統括(するとともに、名古屋大学総長としても振る舞うことになるでしょう)と東海国立大学機構の大学総括理事である岐阜大学長がいることになります)。また、一法人複数大学で学長がひとりしかいない場合も法令上は想定されています(実務上は無理だと思いますが…)。

A−2.一法人複数大学でない場合

一法人一大学の場合(これまでの形態のまま)でも(「その他その管理運営体制の強化を図る特別の事情がある場合には」)、大学総括理事を置くことができるようになります(第十条第二項)*2。第十条第一項により、この場合の法人の長は理事長となります。

A−3.大学総括理事の任命

大学総括理事の任命に際しては、学長選考会議の意見を聴いた上で、文部科学大臣の承認を得て、学長が任命します(第十三条の二)

なお、「学長選考会議」が法令上「理事長選考会議」と読み替えられるべきかについては、4機構への読み替え規定である第二十六条に次のような規定があることを考えると、学長から理事長への読み替えだけでは「理事長選考会議」への読み替えは行われないと見るべきかと思います*3

この場合において、これらの規定中「学長」とあるのは「機構長」と、「国立大学法人」とあるのは「大学共同利用機関法人」と、「学長選考会議」とあるのは「機構長選考会議」と読み替える

この承認については、通常の学長任命相当であることから大臣承認としているものと思われます。実際の運用としては通常の学長任命同様、学長選考会議の申出に基づき、いわば形式的に承認ということになります(第十三条の二第二項)。

なお、そもそも大学総括理事の設置に関しては文部科学大臣の承認が必要です(第十条第四項)。実務上は任命の承認と同時ということになるのでしょうか。このあたりは施行通知に書かれることになりそうですね。

A−4.経営協議会

一法人複数大学の経営協議会については、法人に一つのみ置かれます(第二十条第一項)。大学総括理事は経営協議会の法定委員となります(第二十条第三項)。
それ以外の学内委員の構成については「理事長が指名する理事及び職員(読み替え後の第二十条第二項第二号)」としか規定がありませんので、複数大学の場合にどのような構成にするか(大学間の比率等)は理事長の裁量となります。

A−5.教育研究評議会

教育研究評議会は、一法人複数大学であっても大学単位で置かれます(第二十一条第一項)。大学総括理事は法定委員となり、学長相当者として議長となります。理事長も法定委員ですので、ここではある種理事長と学長の逆転が生じているのがやや興味深いところです(教育研究評議会が個別の大学に置かれるという性質上、当然かもしれませんが)。

なお、第二十一条関係では学長から理事長への読み替えが第二十一条第二項第四号、第三項及び第五項では行われないことになっています(第十条第一項)。
この読み替えを適用すると次のようになります(読み替え部分太字、読み替えない部分イタリック)。

(教育研究評議会)
第二十一条 国立大学法人に、当該国立大学法人が設置する国立大学ごとに当該国立大学の教育研究に関する重要事項を審議する機関として、教育研究評議会を置く。
2 教育研究評議会は、次に掲げる評議員で組織する。
 一 理事長
 二 理事長(当該国立大学に係る大学の長としての職務を行う大学総括理事を置く場合にあっては、理事長又は当該大学総括理事)が指名する理事
 三 学部、研究科、大学附置の研究所その他の教育研究上の重要な組織の長のうち、教育研究評議会が定める者
 四 その他教育研究評議会が定めるところにより学長(当該国立大学に係る大学の長としての職務を行う大学総括理事を置く場合にあっては、当該大学総括理事。次項及び第五項において同じ。)が指名する職員
3 前項各号に掲げる者のほか、当該国立大学に係る大学の長としての職務を行う大学総括理事を置く場合にあっては当該大学総括理事を、学校教育法第九十二条第二項の規定により副学長(同条第四項の規定により教育研究に関する重要事項に関する校務をつかさどる者に限る。)を置く場合にあっては当該副学長(当該副学長が二人以上の場合には、その副学長のうちから学長が指名する者)を評議員とする。
5 教育研究評議会に議長を置き、学長をもって充てる。

最初新旧対照表だけ見て意味不明だったのですが、第二十一条第二項第三号で学長を大学総括理事に読み替えているために、関係部分については理事長には読み替えないという趣旨のようですね。法令執務は深淵です…*4


B.複数学外理事の法定

もともと理事・監事には一人以上の学外者(「その任命の際現に当該国立大学法人の役員又は職員でない者」)を含めることとなっていましたが(第十四条)、理事の員数が四人以上と法定されている国立大学法人において、学外者を二名以上とすることとなり(第十四条第二項)、この際に一人以上の非常勤学外理事を置く場合は、理事の員数を一人増やせることになります(別表第一備考第四号)*5


C.認証評価の結果を実績評価に活用(?)

国立大学法人に係る評価機構の評価に際し、認証評価の結果を踏まえて実施するよう要請することが新たに規定されました(第三十一条の三第二項)。

ここについてはあまり詳しくありませんが、認証評価の結果を実績評価に活用することが法定されて、少しは楽になるということでしょうかね。たぶん次のようなエントリをさっそくアップされているid:samidaretaro先生が詳しく書いてくださるでしょう(何

kakichirashi.hatenadiary.jp


D.指定国立大学の特例

一法人複数大学が指定国立大学と非指定国立大学を含む場合、当然に法人が指定されるのではなく、法人全体もしくは一部の大学のみを指定ということがあり得、どうするかは法人の判断とする規定です(第三十四条の九)。

この場合、法人セグメントをどう切り分けるかは「国立大学の一法人複数大学制度等について」(平成31年1月31日 国立大学の一法人複数大学制度等に関する調査検討会議)でも明示されておらず、どういう運用にするかが注目されます。これも施行通知待ちでしょうか。

 


その他、細かいところはいろいろありますが、ひとまずこんなところでしょうか。
何かのご参考になりましたら幸いです。

 

…こういう読み替えが多い法改正って新旧対照表を読み解くだけでも大変なのですが、改正法の「本文」って「○○を△△に改める」の方なんですよねえ*6。私は法律を読んでもじんましんが出ない体質ではありますがw、こういう改正のタコ部屋には行きたくないこうやって法改正を裏側で支えるみなさんのご努力には頭が下がるばかりです。

*1:学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。

*2:この関係で、大学総括理事の設置の有無にかかわらず、各国立大学法人は学長選考会議規則の整備が必要となるものと思われます

*3:各法人の判断で「通称」を設けることは否定されないでしょうが

*4:もともと第三十五条に定める独法通則法の読み替えるところと、準用する以上当然に読み替えるべきところあたりの話はもはや素人には意味不明であります。参考:https://home.hiroshima-u.ac.jp/hirano/nyumon/hojinho.htm

*5:なお、従来どおり、この員数は上限です

*6:なお本文はこちら。http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/02/12/1413437_03.pdf

iDeCoと年末調整(公務員も入れるよ!)

ずいぶん前に共済加入者とiDeCo*1に関する記事を書いていたわけですが、あっという間にもう1年半ほど経ちまして、今年の1月から加入が可能になり、私の理解では最速で2月から掛金払込が始まっています。
共済加入者も個人型確定拠出年金(個人型401k)への拠出が可能に(2017.1〜) - 気が向いたら書く。
そして、9月までに掛金払込をされた方のお手元には国民年金基金連合会から「個人型確定拠出年金に関する重要なお知らせ」なる圧着ハガキが届いているはずです。こんなやつ↓

年末調整の際は、年末調整の申告書(「給与所得者の保険料控除申告書」)の右下にある「小規模企業共済等掛金控除」の「個人型又は企業型年金加入者掛金」のところに「合計金額」(上記の証明書であれば132,000円)を記載することになります。
証明書は圧着ハガキを添付すればいいのでしょうが、証明書部分がどこまでなのかがよくわからず。一番右端の部分だけ添付すれば十分だとは思うのですが…まあ、年末調整関係書類なんてどうせ勤務先保管なだけで何もなければ税務署まで行かないし、大丈夫でしょう(笑


さて、iDeCoとか複雑だしめんどくさいしそういう意味では制度オタホイホイなんですが、やりたいけどよくわからない、という声も聞こえてくるのですが、前記事にも書いたとおり、iDeCo掛金は全額所得控除の対象になりますので、満額(共済加入者の場合)月1.2万円=年14.4万円を拠出すればざっくり28,800円の節税効果(所得税10%、住民税10%としたの場合の概算。いっぱい稼いでいて税率高い人は当然節税効果も大きくなります)がありますので、運用効果を無視して定期預金に突っ込んでおいてもそれなりの効果はあるということになります。いまだに趣旨がよくわかんないふるさと納税よりずっとまともじゃないですかね

ちょっと前まで運営管理機関手数料が年額5000円くらいかかっていたのですが、5月にSBI証券が無料化を発表して以降、楽天証券も追随したりして、手数料はどんどん安くなっているようです。それでも国民年金基金連合会等に払う手数料は月額170円程度(年額2000円程度)かかるので、定期預金に突っ込んでおくだけだと運用の面では目減りしていく一方なのですが、長期投資ですし、多少はリスク運用もすべきなのではないかと思います(このへんはライフステージにもよるので一概には言えません。節税効果だけを目的に定期預金でノンリスク運用という手もあるとは思います。さすがにちょっともったいない気がしますが)。
手数料について参考→iDeCo運営管理機関手数料は「無料」が当たり前に!? =iDeCo手数料の現在値|モーニングスター

ちなみに現時点の私の運用状況はこんな感じです。
口座開設時の手数料(国民年金基金連合会に払うもの)2880円、毎月の事務手数料が167円発生していますが、それを差し引いても思ったより早く損益がプラスに転じています。長期投資なんで短期損益に一喜一憂していてはいけないのですが、それでも損益プラスになっているというのはやっぱり嬉しいものではあります。

特段のポリシーがあるわけではないのですが、iDeCo関連のいろんなWebページを渉猟した結果、長期投資ならある程度のリスク運用でいいのではという結論に達したので、債券すら入れずに内外の株とREITで攻めています。

銘柄としては信託報酬が低いことを重視して、こんな感じです。

  • 国内(30%)
    • 国内株式(20%)
      • TOPIX連動(10%)(「日本株インデックス」)
      • 日経平均連動(5%)(「日経225インデックス」)
      • JPX日経400*2連動(5%)
    • 国内REIT(10%)
  • 海外(70%)
    • 海外株式(60%)
      • 先進国(30%)(外国株式インデックス)
      • 新興国(30%)
    • 海外REIT(10%)

分散型投資をパッケージにして「これ1本買えばいいよ」という投資信託もあるのですが、そういうのはたいがい信託報酬が(比較的)高めです*3。長期投資ということを考えると信託報酬による差もバカにならないので、個人的にはちょっと面倒でも自分でメニューを組む方がいいのではないかと思います。あとは、年1回くらいでいいので資産状況を見て適宜リバランスを検討するくらいなんでしょうか。
私は基本的にインデックス型*4投資信託でやっていますが*5、環境重視型企業株への投資とかそういう投資信託の設定もあったりするので、興味関心にあわせて、そういうのを買ってみるというのもありかもしれません*6
いまはわりと株高円安なのでお気楽なもんですが、これが株安円高に転じたときにどうなるかというのはある意味見物ではあります。
まあ、そうなったらそうなったで基準価格安いうちに口数いっぱい買っとけって感じなんですけどね。どうせ長期投資だし。

具体的な投資商品の選定って(私もそうでしたが)すごく迷うと思うので、何らかのご参考になれば幸いです。
ただ、損失が出たときの保証はいたしませんのであしからず(もっとも、何度も言いますけど長期投資なので短期の損益にあまり躍起になってはいけないとは思います)。
あとは、原則定年後まで引き出せないので、あくまで余裕資金を投下するのだというところは堅持しないといけないと思います。
お金なくなって途中で引き出したら手数料やら遡及して課税やら、いろいろ面倒だしなんとなれば損してしまいますので。

*1:という名前は当時はなかったわけですが

*2:「資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした、『投資者にとって投資魅力の高い会社』で構成される新しい株価指数」。JPX日経400・JPX日経中小型 | 日本取引所グループ

*3:それでも普通に投資信託を買うよりは安いことも多い

*4:TOPIXとか日経平均に連動するやつ

*5:インデックス型は信託報酬が安めという利点もあります

*6:繰り返しですが、長期投資なので信託報酬は安めの方がおすすめです

一枚の紙の重さ。

正確には一枚の紙というよりは一冊の小冊子なわけですけれど。

薄い本の一部を書いて、そこそこゴリゴリ校正をして、昨日は当日の売り子業もちびっと手伝って、打ち上げでお決まり?らしい焼き肉に行っておつかれさまでした、だったのですが。
昔っからけっこうこういうお祭り騒ぎは好きな方なせいもあるんでしょうけど、イベントごとが終わって、しかも翌日休み(今回は平日だけど夏休み)&特段の予定なし、なんて状態になると、こう、漠とした寂寥を覚える瞬間があったりもするのですよね。コミットしていればいるほどその傾向は高まる*1ので、ある種のバーンアウトみたいなものかもしれませんけれど。
なお参考→「虚構と防災」続編「シン・虚構と防災」C92関係の頒布全て終了しました! #C92 - Togetterまとめ

それはそれとして、事務局おねーさまからC93の申込書を渡されましてですね、いろんな流れからしてつい即座に受け取ってしまったわけですが、冊子を読みつつ改めて考えるに、サークル代表ってロジだけでも大変なのに、本まで作るんだから中身もやるわけで、なんならタコ部屋のサブロジみたいなもんだよなあ(?)、すごいなあ、と改めて思った次第です。

他方、大変ではあるけど「ものができる」ということの達成感というか、やりきった感についてはそれこそ高校時代から知ってはいるところではありますし、「紙で出す」意義については先日の糸井重里さんのツイートの通りだなあ、と思うので、それがそれで大変だけど楽しいというのはわかってるのですよね。

だからなに、というわけではないのですけれど、コンテンツがあるということと、それを支える体制がちゃんとあるっていうのは、すごいことなんだよなあ、ということを改めて感じたのでした。So Win-Win!
というわけで、少しはわかっていたつもりではあったけれど、それを一段進めて気づかせてくれたお姉様に最大限の感謝を。


で、C93、やるんです??
一両日くらいにはやるかやらないか決めなきゃなんですよねえ。

*1:かつて若さにまかせていろいろ汗をかいた某会議とかまさにそれだろうなあ。あれはあれで面白かったけれど

銀座線360°動画


東京メトロの銀座線360°動画があまりに素晴らしくて何度も再生したあげくに文字起こしまでしてしまった件。
1:10のところだけなに言ってるかよくわかりません。「タイヤ入換注意」に聞こえるのだけれど…
どなたか識者のご意見絶賛募集中。

0:02 入換注意
22 入換注意
30 一旦停止
40 入換注意
1:10 第二?入換注意
20 手動ブレーキ
40 転動防止
43 指令所指令所〜
48 上野回送64担当運転士です。丸ノ内線までTASC解除の許可願います。了解しました。
2:00 合図良し、進路開通
34 進路開通
59 手動ブレーキ
3:17 転動防止

3:35 (車掌)もしもし、乗りました
(運転士)了解しました
3:46 (運転士)準備整ったので発車します
(車掌)はい発車お願いします
(運転士)発車良いか
(車掌)はい発車良し
(運転士)(交代した運転士に「お疲れさまでした」と声がけ) 点灯良し

4:34 転動防止、停止

4:49 ATC構内、点灯 第一警戒注意、通路線、コード35
5:34 第二注意
6:01 P点灯
14 停止

なお喚呼用語の確認にあたっては下記サイトも参考にしました。
BVE懐かしいなあ。
確認喚呼

山本裕子さんへのreply(河野太郎代議士の問題提起に関連して)

学振RPDの山本裕子さん@香川大がresearchmapで例の河野太郎代議士のもろもろをまとめて分析していらしたので、おーすげー!と思いながら眺めておりましたら、いくつか気づいた点がありました。
先にご本人にメールさしあげたところ、ぜひオープンディスカッションで!とのことだったので、若干改稿の上こちらで公表いたします。

つか、わたし、高等教育関係の研究の真似事こそちらっとしていますけれど、簿記2級と3級持ってるくらいで、ぜんっぜん財務の専門家ではないし、人事の専門家でもないのですけどね…
まあ、こうやって議論が盛り上がる & fact-based discussionが行われることは良いことだと思うので、間違いを恐れず出していこうと思います。ので、間違いなどお気づきの際にはコメントなりでお知らせいただければ幸いです。


○福利厚生費と人件費減少の件
福利厚生費については、少なくとも法定福利費については人件費に含まれています。
たとえば東大のH27財務諸表を見ると、教員人件費は53,597百万円(p.4)ですが、これは給与、法定福利費、退職給付の合計額(p.46)です。
おそらく各大学とも同様の決算処理をしていると思われます。

ところで、ここで言う「法定福利費」ですが、これは「法定」と言うだけあって、法律上事業主が支払義務のある社会保険料(健康保険・年金)と雇用保険料の事業主負担分、労災保険料(これは全額事業主負担)だけのはずです。
高齢化もさることながら、社会保険料、とりわけ年金の部分は毎年料率が上がってきたので事業主負担は増えていますし、雇用保険労災保険については国の時代は支出がなかったはずなので、完全に純増です。
なお、山本さんが教育経費・研究経費の中に福利厚生費がある、とツイートされていますが、これは(少なくとも大部分が)健康診断費用と思われます。

なお、国立大学協会の資料(p.32)を見ると、附属病院を除いた人件費については教員・職員とも常勤は減少、非常勤は増加(トータルでは減少)で間違いないようです。
(なぜ病院を除くかというと、病院の赤字を補填していた運営費交付金が徐々になくなり(いまは0になっているはず)、7対1看護加算等の診療報酬政策もあって、病院は増収のために人を増やしていることもあり、一緒に議論できないからだと思われます)

人件費が減っている、という点については、運営費交付金や定員の削減(※)等もあり、少なくとも常勤については人数そのものが減っているはずなので、その減少分が福利厚生費の増加分を上回っているということではないかと思います。
この点、山本さんの「統計2」のデータでもH16→26で常勤教職員の数が3000人以上減少していることからも確かめられます。
国立大学法人化後も国家公務員同様の定員削減が適用されていました。いまも「承継職員」と通称?される、退職金が文科省から措置される「枠」が変わらず存在しています。このために退職金の引き当てはできないし、人事給与制度のドラスティックな改革が難しい(もっともそこが法定されているわけではないので、困難を承知で進めないわけではないですが。。)のが現状です。

さらに、高齢層を中心に給与の減額改定や給与構造の改訂(ベース給を減らして都市手当を増やし、地方は低く、都市は高くすることで地域ごとの民間との給与格差の改善を図った)も行われているので、後者はともかく前者は人件費減の要因になっているかと思います。もっとも、現給保障があるのでその効果は相当程度減殺されている可能性があります。


○教職員数の件
これは(もとの統計を見ないとなんとも、ではあるのですが)おそらく非常勤の有無ということで合っていそうな気がします。
河野太郎代議士のblogのデータの出元がどこなのかよくわかりませんが…
(ちなみに、この手の調査で一番信頼の置けるものは学校基本調査です。統計1のH26学生数・教員数は学校基本調査の数値と一致したので、たぶん統計1は学校基本調査が出典と思われます)


○法人化後の業務について
中期目標・計画などの評価関係や、安全衛生関係の業務は法人化によって純増した業務です。が、その業務を非常勤職員が担うわけではなく、常勤職員の仕事がそちらの方にシフトして、表現はよくないかもしれませんが、非常勤職員に任せてもよいような仕事を(非常勤を増やして)お願いする、ということになります。
(上記のように常勤職員の定員削減がかかると、その傾向がいっそう進む、ということになります)

そのため、非常勤が増えるから一人あたり年間給与額が上がるという議論は直ちには妥当しないと思われます。もっとも、減少理由もわかりませんが…
(一人あたりの労働時間が短くなったという仮説はあり得ますが、それを説明する要因が特に見当たりません)


○人員配置の「手厚さ」について
教員数と職員数を比較するというのは一見妥当しそうなのですが、学生数や予算規模、法人の大きさといったファクターも出てくるので、一概には言えません。
むしろ、研究支援者数のデータ(国大協データのp.33)を見れば、あまり十分な状況でないと言えるかもしれません。
山本さんもツイートされていますが、古井先生のデータも同様のことが言えるかと思います。

もちろん、業務改善の余地はまだまだあると思うので、そのへんをうまく工面して非常勤職員を減らす余地はあるかもしれませんが、そもそも法人化によっていろいろな業務量が増えていて、競争的資金や補助金の増加、監査の厳格化等によって(諸先生方がおっしゃるとおり)余計な事務仕事が増えている面もあり、ドラスティックに支出を減らすのは困難ではないかというのが個人的な感想です。


(以下、山本さんのツイートを見て新しく書いた分)
○「受託研究費」について
どっかで書いたよなあ、と思ったら、3年前のクリスマスwに弊はてダで書いているのですが*1、国立大学会計基準って基本的には普通にやってたら利益が出ないというのが基本精神なので、ずいぶんテクニカルな操作をしています。
そのへん、細かい話をご覧になりたい方は前のエントリとか、東大のフィナンシャルレポート(リンク先の下の方)をご覧くださいませ。ある程度会計がわかる方には新潟大の説明資料もよろしいかと。
そしてこの項、具体的に書けば書くほど馬脚が自分で見えるのでw、詳しい人誰か教えてください。ほんとに。

受託研究費ですが、これもお金をいただいた時点では「研究しないといけない義務を負った」ということで、負債として「前受受託研究費等」を計上いたします。東大H27では5,997百万円(以下数字は東大H27財務諸表による)を計上しています。
そして、受託研究を実施する上での研究機器の購入とか人件費とか、いろんなものに支出するごとに費用が発生するわけですが、これを受託研究費(34,843百万円)として処理する一方、その見合い(+間接経費分、かな?)の前受受託研究費等を「受託研究等収益」(42,383百万円)に振り替えます。
負債に比べると費用と収益の額が大きいですが、これは年度を超えた分だけ財務諸表に出てくる(同一年度で契約が完結していれば、年度末の負債には計上されていない)から、だと思います。


○「雑費」
これは、たぶん勘定科目の「その他の雑費」の累計のような気がするんですが、その名の通りほかの勘定科目に分類できないもろもろが入ってくるので大きく見えるのかもしれません。
あんまり「その他の雑費」って使わない方がいいんですけど、どうしてもそれにしか分類できないものってあるんですよねえ…。。


○「一般管理費
教育研究支援経費との区分けはそれこそ決算担当にでも聞かないとわからないような気がしますが、たぶん本部関係、とりわけ総務とか人事とか財務とか、そういうところで使ったお金かなーと思います。
少ないに越したことはないのですが、一方でこういう機能がないと組織として成立しないというところもあり。


で、山本さんも「額が大きいから…0.1%の手数を省くだけで」とおっしゃるとおり、「とにかく額が大きいからちょっとくらい減らしたって大丈夫だよね(はぁと」といってざいむしょーの中の方は運営費交付金減らしに来るのです。
もっとも、もはや単一の項で兆単位の予算なんて福祉予算は別とすれば義務教育費国庫負担金と国立大学法人運営費交付金くらいじゃないかと思われるので(どっちも文科省!)、しかも確固たる積算根拠のない後者を減らしたくなる気持ちはわかるのですが。

ただ、これを減らすと、人件費はそう易々と削れませんし、建物の修繕とかもしないといけないし(むしろ施設整備費補助金は法人化後ぜんぜんつかなくて困っているくらい)、光熱水費だって(特に電気代)増える一方だし、そうなるとむしろ大学や部局の執行部としては「研究費の額が大きいし、優秀な人は科研費とか受託研究取ってこれるんだからちょっとくらい…」って減らしてもおかしくはないと思うんですよねえ。
もちろん、無駄を省くことは常に追求していかないといけない(し、まだその余地は残されているはず)のですが。

*1:クリスマスに何やってんだここの筆者w

北大における人件費削減報道を見て考えてみたこと。

はじめに申し上げておきますが、筆者は北大関係者ではありません。別に北大執行部の味方をするつもりもありませんが、執行部はこんな風に考えているのかなーというのを、Facebookはてブでバズっているのを眺めながら、いろいろと考えてみたところです。
ご関心のある向きもあるやも、と思って、メモ代わりに残しておきます。
なお、国立大学法人における人事制度や会計基準については少々の知見はあるものの、業務できちんと扱ったことは皆無なので、趣味で勉強した程度であることもあわせて開示しておきます*1
国立大学法人制度や国立大学法人会計基準についてはだいたい前提として書きますが、疑問点等ありましたらコメントいただければ(能力の限りで)お答えいたします。


北海道大学職員組合のブログによれば、執行部が教授相当で205人分の人件費削減を提案した、ということのようです。
北大で教授205名分の人件費削減を提案 - エルムの森だより
同ブログのリンク先にある執行部提案資料と思しき資料(http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kumiai/16/160906.pdf。以下「執行部資料」という。)によれば、収支均衡を図るためには平成29年度に▲9.9%(教授換算で143人分)、平成33年までの累積で▲14.4%(同205人分)の削減が必要との由。

全体の財政状況については、国立大学会計法会計基準が収支均衡になるよういろんな操作をしているせいで、財務諸表を概観する程度では素人にはよくわからないので、比較的直感的にわかりやすいであろう一般運営費交付金(最近は基幹運営費交付金って言うんですかね)*2と承継教職員*3の人件費との比較、という観点から考えてみたいと思います。
なお、前提として、承継教職員の人件費については安定的な財源から措置するのが望ましいため、これまでおそらくほとんどの国立大学で運営費交付金を財源としていたものと思われます(筆者としてはそういう認識ですが、人事制度ということもあり、なかなか明文化されたものは出てきません。名古屋大学における運営費交付金の使途に関する基準が一例と言えるでしょうか*4)。

財務諸表のデータを見てみると、平成16年時点で一般運営費交付金*5の額が385億円、承継教職員の人件費は313億円*6と、ここには72億円ほどのマージンがありました。一番のコアとなる人件費を全額運営費交付金で払っても、まだ72億円はフリーハンドで使えるお金があったわけです*7
これが、平成25年にはそれぞれ283億、271億、12億と、マージンが大幅に小さくなっています。この頃は震災の影響もあって給与削減が行われていたこともあり、幅が小さくなっていたという要因があるのでしょうが、平成27年には317億、297億、20億と若干回復しています。

ただ、(「年金一元化の影響」と表現するべきかはともかく)法定福利費平成30年までは上がり続けることが確定しているわけですし、運営費交付金は「機能強化促進係数」がある以上、少なくとも第3期中期目標期間中は減り続けることが見込まれます。それと今後の人件費見込みを照らし合わせたところ、人件費を執行部資料の通り削減しないと帳尻が合わない、ということになったのでしょう(なお、中期目標期間中の収支見込みについては中期計画の別紙に摩訶不思議な(苦笑)計算式とともに明記されています)。

執行部資料によれば、「平成29年度から外部資金財源でも本学教員と同程度の役割と責任を担うことができる教員雇用制度を創設する」と書いてあるので、北大においてもおそらく承継教職員人件費は運営費交付金でまかなうという前提があるように思われます*8。ただ、運営費交付金が減り続けている現状で、すでに運営費交付金の額が承継教職員人件費を下回っている大学もあるとも聞きますし、もう「安定財源でないといけない」なんて言っていられないように思います。

北大の規模であれば、ある程度安定的に間接経費が獲得できると見込まれるところ*9 *10、ここまでドラスティックに教員を減らすよりも、間接経費等からも承継教職員人件費を措置する、とせざるを得ないのではないかと思います(もっとも、そうしたところで一定のポスト削減は免れないのでしょうが)。東大なんかは平成18年以降、総人件費改革への対応と教員ポストの全額再配分ということで承継教員ポストの一定比率を削減してきたのですが*11、北大では人件費ポイント制を導入して部局ごとに柔軟に人件費管理ができるようにしたがために、これまで毎年の漸減ができなかった、という事情もあったのかもしれません(「北海道大学の概要」各年度版を見るに、平成16年と平成28年を比較すると61人(3%程度)の減となっていますので、そこそこ減っているようにも思われますが)。

教員を減らすというのはやっぱり最後の手段だと思うのですが、教員だけでは組織として存在できないわけですし、様々なトレードオフがある中で、大学をどう意義があるかたちで存続させていくのかということを、そろそろ本気で考えないといけないのだと思います(もう遅すぎるくらいの気もするけれど、考えないよりはいまからでもはじめた方がよほどマシでしょう)。
減らしたくないというのはわかりますし、生首があるのもわかるのですけど、だからって何もしなかったら借金が増えていくばかりの国鉄の二の舞にもなりかねないわけですし…(国鉄は1964年に初の赤字を計上して以来、分割民営化に至るまで実に20年以上連続して赤字計上を避けられませんでした)。

それにしても、承継人件費を基幹運営費交付金で措置できなくなった時点で、承継退職金を特別運営費交付金で措置するという現行スキームは、なんだか大変不思議なスキームになるような気もするので、交付国債でもなんでもいいから、潜在的な負債を各国立大学法人に移転してしまえばいいのでは、という気もいたします(参考:国立大学法人に年俸制は広く導入されるのか?(5): NUPSパンダのブログ)。
もちろん、運営費交付金のスキームとして必要経費−大学収入(授業料、診療収益、産学連携収入等)を措置するという考え方なのですから、必要な人件費の全額を直ちに運営費交付金で措置しないといけないわけではないのでしょうが…。。
退職手当と損益外減価償却累計額という「国の隠れ債務」は本当にどうにかしてほしいなあ&さっさとどうにかした方がいいんじゃないか、と思うところです…。。

*1:というわけで事実誤認等がありましたらコメント等でお知らせいただけましたら幸いです。特に予算実務はまったく知らないので…

*2:原則何にでも使ってかまわないお金

*3:おおむね、国立大学法人化以前から存在するポストに対応するポスト。もっとざっくり言えば原則的には任期のない正規教職員

*4:とくに附属病院で診療収益を財源として承継相当職員?を雇用している例も見られます

*5:ここでは期間進行基準で収益化した運営費交付金収益の額を一般運営費交付金の額としました

*6:退職手当は特別運営費交付金(費用進行基準)の対象なので除いています

*7:授業料とか病院の黒字(あれば)という要素もありますが、とりあえず措いておきます

*8:おそらく財源が違うと特任教員扱いになるのでしょう

*9:間接経費があるから使えるお金があるとも限りませんが。ともあれ、科研費の間接経費等はある程度安定財源とみてよいでしょう

*10:北大の財務諸表によれば、科研費等の間接経費の額はおおむね13億円程度を底として安定しています

*11:うち一部を総人件費改革への備えとして凍結し、残りを再配分に活用

共済加入者も個人型確定拠出年金(個人型401k)への拠出が可能に(2017.1〜)

5/24に衆議院本会議で確定拠出年金法等の一部を改正する法律案が可決され(参議院先議)、成立しました。閣法 第189回国会 70 確定拠出年金法等の一部を改正する法律案
これまで共済加入者(私学共済含む)や国民年金の第3号被保険者(専業主婦等)、企業型401k制度のある企業の従業員は個人型401kに加入できなかったのですが、2017年1月より新たに加入可能になります。
共済加入者の拠出限度額は年額14.4万円(月あたり1.2万円)と、国家公務員共済の年金払い退職給付(保険料率上限1.5%)にさらに上乗せするものとしては若干少ないような気もしますが、ともかくこれで新たに所得控除の対象となる投資対象が増えたことになります。厚労省の制度説明

個人型401kの場合は運用先は自己の判断により(定期預金に預けるというオプションもありますが、長期運用であることを考えると対インフレ率の面で保守的に過ぎるように思います)、いくばくかの手数料も取られますが(預け先の機関によってけっこう異なるようです)、拠出額が全額所得控除対象になる(個人年金保険料とは別枠)ため、税控除額を勘案すると実質利率は相当になるはずです。ざっくり所得税10%、住民税10%として、満額拠出して28,800円の節税になる、といったところでしょうか。
運用益も非課税、受け取るときも税制優遇、投信等の購入手数料もかからない、など、年金制度を補完するためなのかわかりませんが、投資商品としては相当魅力的に思われます(運用益だけであれば嬉しいですが、当然ながら運用損も自分に戻ってきますので、リスクについても考慮する必要はあります。もっとも、多少の損であれば税控除の効果で相殺されそうですが)。
おそらくそのうち銀行や証券会社がキャンペーンを始めるのでしょうが、長期投資ということを踏まえ、様々な手数料を勘案しつつ、余裕があるのであれば満額拠出(満額出しても月々1.2万円です)するのが賢いのではないでしょうか。

日経の以下の記事もご参考までに。
誰でも利用できる、最強の老後資産形成|マネー研究所|NIKKEI STYLE