国立大学の「利益」って何??

別に哲学的な話をしようというわけではなく、日経のこちらの記事に関する話です。
国立大の利益、東大が首位 私立は近畿大 :日本経済新聞
リード文のみ引用しますと、

 少子化による学生数の減少など厳しい環境が続く中で、2012年度に安定的に利益を稼いだ大学は――。全国の国立と主要私立の計129大学の決算を調べたところ、国立では東京大学、私立では近畿大学がそれぞれ首位となった。国からの交付金は減少傾向だが、付属病院の収入増などが寄与して高水準の利益をあげた。

ということで、2012年度は東大の当期総利益は45億円、国立大学では1位と紹介されています。
…これだけ見ると、「そうか、東大は2012年で単年に45億も利益出したのか、すごいな(あるいは、けしからんな(?))」って思いますよね。

一方、東大のトップページを見ると、東京大学というページヘのリンクが張ってあります。

12月22日の日本経済新聞(朝刊)に、平成24年度決算において当期総利益が45億円で首位との報道がなされました。しかしこれは例年と同様、現金の裏付けのない利益で、国立大学法人会計基準制度の会計処理により生じているものであり、借入金償還期間とその財源で取得した固定資産の減価償却期間とのずれから生じるものです。

…???

正直これだけ見てもよくわかりませんね(45億という数字が一人歩き、というニュアンスは感じられますが)。
それでは、東大の財務諸表を見てみましょう。
平成24年度財務情報 | 東京大学平成24年度(=2012年度)の財務情報が掲載されています。
一番上の「決算の概要」というPDFを開いてみると、

運営状況につきましては、損益計算書では、経常費用 2,092億円、経常収益 2,138億円、この差額の46億円が経常利益となっております。この経常利益には、目的積立金として承認申請を予定している額約0.3億円が含まれております。この資金を伴う利益は、効率的な事業実施の実現による経費の削減などの経営努力により創出したものであり、中期計画に定めた「教育研究の質の向上及び組織運営の改善」のための経費に充てることとしております。

最初に確かに「46億円」(1億円のズレは四捨五入か何かでしょう)とありますが、その後いきなりトーンダウンして「0.3億円」という数字が出てきています。その後に「資金を伴う利益」というタームも飛び出していますが、ちょっと飛ばして3ページ目の表を見ると「今期における当期総利益の主な要因」という記載があります。

現金の裏づけがあるもの 【約 0.3億円】

現金の裏づけがないもの 【約 45億円】

…???!!!
どうやら、3000万円以外は「現金の裏付けがない」「利益」らしいのです。

この3000万円の内訳は、「効率的な事業の実施による経費節減など」、要するに節約して3000万円作りましたよ、ということですね。
一方、45億円の方は

自己収入により取得した固定資産取得額と減価償却費との差額 【約 19億円】
附属病院の建物建設資金や診療機器等の整備のために財政投融資からの借入金の償還期間とその財源で取得した固定資産の減価償却期間のずれから発生する借入金元金償還額と減価償却費との差額 【約 26億円】

と、相変わらず良くわかりませんが、どうも減価償却の関係で、「利益ということにはなってるけど手元に現金があるわけじゃない」ということみたいですね。

このへんのことは、他社さんの資料で申し訳ないのですが、毎年国立大学法人会計基準について非常にわかりやすい解説を書いてくれることで(少なくとも私には)定評のある、京都大学さんのファイナンシャルレポート京都大学 ファイナンシャルレポート2013をご覧ください(pp.28-29)。
ひとくちで言ってしまえば、「今は利益出たことになってるけど後年度で損失が出るから最終的にはバランスします」、ということで、あくまでテクニカルな「利益」でしかない、ということですね。

ただ、これは企業会計と同じ話なので、それを「利益」として捉える日経の姿勢にも一定の合理性がないわけではありません。他方、企業とおなじ感覚で「45億儲けてる」と言われるのには非常な違和感があるのもまた事実です。
これは、感覚だけの話じゃなくて、国立大学法人会計基準特有の処理が影響している部分もあるのです。よーく見ると、先ほどの「現金の裏付けのない利益」の部分、ちょっと違和感を覚えませんか?

自己収入により取得した固定資産取得額と減価償却費との差額 【約 19億円】
附属病院の建物建設資金や診療機器等の整備のために財政投融資からの借入金の償還期間とその財源で取得した固定資産減価償却期間のずれから発生する借入金元金償還額と減価償却費との差額 【約 26億円】

ここで触れられているのは、「自己収入により取得した固定資産」と「病院関係の固定資産」のみです。つまり、それ以外の固定資産の減価償却についてはここには出てこないのです。それがどこに行ったかというと…(もう十分に長いので次の項に続く)